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2022年4月・有栖川有栖&米澤穂信の〝ミステリー地図〟対談を拝聴しました!

ムール貝の中のこんぺいとう、奏花です。
アコヤガイに入るのはあまりにも畏れおおかったもので……。
下処理をすれば甘さは解消されるので、どうぞお気になさらず。



さて。
さる2022年4月8日――本サイト運営1周年記念日でもありますね(広告)☆

有栖川有栖 米澤穂信(敬称略・50音順。以降、有栖川氏・米澤氏)
両名による90分間ノンストップ対談を拝聴しました。

詳細はこちらの公式note記事をご覧ください!
→https://bessatsu-bunshun.com/n/nb128eecb70c0


おふたりは『ダ・ヴィンチ』2016年4月号(KADOKAWA)から6年ぶり、2度目の御対談だったそう。
全体を通してお互いをリスペクトしている雰囲気があり、いくつもの気になるワード・作品が登場。
とても楽しませていただきました!


目次

お互いの最新作について

米澤穂信『黒牢城』

有栖川氏は、嬉しそうに「本格ミステリ・充実した歴史小説としてダブルでおいしい作品。楽しみ方が多く、豊かな読書体験になった。ちゃんと高く評価されて偉い!」と丁寧に大絶賛。
突飛な人物や歴史上の人物を現代の扱いや全編における無常観を評価。軍師・黒田官兵衛は扱いやすい反面、牢の中で推理するだけでは出オチ。荒木村重が何者かわからなさすぎることに加えて司馬遼太郎『国盗り物語』のイメージが強い……作品にするのは難しかっただろう。黒田がサジェスチョンして荒木が推理する、ふたりのコンビネーションだったから面白かった。
面白いとは思うが、ひとつの作品にしようと、私には拾えなかった。
名作・傑作と呼ばれる作品に共通するように「書かれることを待っていたように思える」作品だった。
ただ「面白そう」だけでなく、もういくつかの確信があったのではないかと考察。
米澤氏らしいミステリがベースにある面白い発想であり、大人の物語として生まれたミステリだと感じた。
また、産経新聞の記事(https://www.sankei.com/article/20220131-H6PHBCQ2YZIZDJGMOD5GUEGB7M/)を拝見。こちらも面白かった。牢について、扱いが面白い。
また、調べることが多かったと思うがそれで満足しかねない。道に迷う可能性もあっただろうが、うまく直進していたように思う。

米澤氏は、知識が全くないところから始まった作品を高く評価していただけて嬉しい。フラナガンが好きで、それくらいのことはしたかった。荒木がやられやくにならないよう気をつけた。謀反について考えたことが突破点だったと思う。関西のミステリだとおもって執筆した。土地勘のなさに苦戦したが地図から様々なことを考えたし、実際にも赴いた。
また、調べるだけ調べて、志向だけ凝っていてもミステリとして面白くなければ意味はない。小説として表現できてよかった。
10代前半の感覚では大人が読むもの、酒・煙草を薄めて摂取している感覚だと思っていた、大人が子供らしく遊んでいることに憧れて面白さ・おしゃれさを覚えたため様々な経験を積んだ方々が楽しめるものだと思っていたと米澤氏。
今思うと子どもが登場する作品は楽しいが、当時は苦手だった。だからこそ、ミステリはイギリスのおっさんという感覚。はやみねかおるさんからミステリを知った方とは感覚が異なっている。
宗教哲学・仏教哲学を織り込むことで走り出せたのだと思う。

しゃれた大人のものだという感覚は理解できる。チェスタトンのような妙に力が抜けたものをかっこいいと感じた過去の感覚を思い出した。


有栖川有栖『捜査線上の夕映え』

米澤氏は、有栖川氏の長編全作について「リアリティレベルのギアをかえているのではないか」と考察。今作ではギアが高く、大人の読書体験に感じた。クロフツ『樽』のような、五里霧中だったところから霧が晴れていくと見えたのは迷宮だった……という感覚。
また、今作にかぎらないが、被害者の悲劇性でストーリーを引っ張らないのは意図的だろうか。イギリスのミステリのような、潔さを感じる。罪がキャンセルされるわけではないし、被害性・悲劇性で小説を引っ張る感じはしない。

有栖川氏はこれに対して、指摘されてハッとした。自粛生活にてクロフツを再読したところ若いころの初読より面白いと感じた。ミステリ好きの友人と話したときも最高のミステリとしてクロフツが俎上に上がった。トリックは荒いが、探偵役が視点のため思考のプロセスがすべて明かされる。思ったことがすべて書かれて蓋然性の高いことを進めていくから面白いのだろう。
おそらく、影響は受けている。
潔さについては、意識していない。笑
あまり話すとこれからの著作の性質がバレてしまいかねないかも。笑
連載から文庫になるときに、被害者に対する憐みを2行ほど加筆した。
矜持・譲れぬものを侵されまいとした殺人はやむなしとする犯人は多い。現実に復讐している感覚――現実に対して復讐している感覚。
現実は現実。憎んだり否定したりしたくなる。ミステリでは、現実が現実の中で倒される。
ある種の象徴的な復讐。ミステリとしての痛快さに欠けることになるから避けている。

見当違いでなくて良かった、と米澤氏。
子どものころ、ミステリについてロジックが通用することが嬉しかった。現実では通用しないこともあるが、ミステリでは人を説得させる
プリミティブな話、英雄の話だと思った。解けてしまうことに対する面白さがミステリを快く思った最初の理由。
『密室ミステリ大図鑑』のチェスタトンの章でも強く共感した。

有栖川氏は、ロジックが通用することを面白く感じるのは現実では通用しないからだと表現。ファンタジーのひとつ、やり過ぎたら違和感になってしまう。
ミステリーは絶妙なバランスで成り立っているから、小説の技法も大切になってくる。面白い作品には、必ず〝魔法の粉〟がかかっている。
ただ、どれだけ面白い作品を書こうとがんばっても最後には〝魔法の粉〟が必要不可欠。中毒性や牽引性など種類はあるが、いずれも成分がわからないから精製できるものではない。

これに対して米澤氏は、文字が光って見えることはある。確かに、同じ日本語で書かれているものだが、理由はわからない。
目が滑ってしまう理由も指摘できるダメなところもあるのに、良い作品はある。
小説の本質だとは思うが、よくわからない。

米澤氏は1ページくらいで不思議な魔法の粉を撒くから、読者は案内に従うだけ。
また、ミステリの構造は案外フラクタル。アリバイトリックは大山さんのようにやろうと思えばできる。たくさん読んだら見えてくる面白さはあるだろうと有栖川氏はまとめました。


おふたりの〝ミステリー地図〟

有栖川氏は自身の著作『本格ミステリの王国』から〝ミステリー地図〟をイメージ。
良い本格ミステリには、豊かな風景がある。自分の中にしかないからイメージの王国は人に見せられない。読んでいくごとに風景は移り変わる。誰もが、それぞれ持っている。
冊数に関わらず、その人の心に響いて広がっていく。誰もが唯一無二な地図を持っている。
作家も読者であり、読者の数も質も良い米澤氏は良い地図を持っているのではないかと想像。だから、米澤氏は殊に豊かで、さまざまな作品を作り上げていらっしゃるのだろうと考察。

米澤氏は、人に教わり読書していないことに汗顔。
中高のころに読んだものは地図の中心だろうと思案。畏怖の分岐点として、大きく地図が更新されたのは山田風太郎を読んでから。とんでもない荒野が広がっていた。ミステリ恐るべし、と思った。

風景に荒野や砂漠があるのは面白い。
読んだ直後に地図が変わるとは限らない。欲を言えば地図を変えたい。自分の地図を変えて、ほかの方にも同じものを感じてほしい。

リアリティレベルを上げたのは、地図を変えるため?

想定していなかったが、その気配はあったかもしれない。気の赴くまま、気になる風景で何とかしようとしたと思う。ディティールを細かくしてズームしたかった。
ちょっとしたことで簡単に風景は変わる。そのちょっとのことがしたい。


質問に対して

全体的に、創作に関する質問が多かった。

舞台となる土地・インスピレーションについて。決め手になる瞬間は?

有栖川氏
何も決めてない状態から書きたい場所に赴く。作品とともに定着してくれたら嬉しいが、特にはない。知っている場所が多いとは思う。書きたい・出したいはあるかも。事件・ご遺体が登場することが申し訳なく思う。そこがミステリ作家の辛いところ。笑

米澤氏
いえ、特には。
どうしてもイメージがつかめなかったとき、赴いた土地にて「ここならこの話がかける」と思ったことはある。そのばでホテルを1週間かりて、そこで描き上げた。
話の焦点がつかめなかったとき、ホテルの観光パンフレット深大寺のお祭りを知って、赴いた。そのお祭りを見たとき、焦点が定まった。前半と後半がつながる結節点になると思った。


要素をそれぞれ結びつけるのが難しい

米澤氏
プロットは立てようと思えば建てられる。それでも漫然としていることはある。話が引き締めるために、舞台を変えることは重要。場所が持つ力・場面転換が持つ力は大きいだろう。それが、話の結節点になり得るだろう。

有栖川氏
ふだんから多くのものをみていたほうがいいと思う。ついででもいいから、知らないものを見ておく。きょろきょろするのが大切。人や物に注目する。見ない人は見ないし面白がる人は面白がる。見たら小説を書くのに使える。作家には得手不得手がある。小説全般について、何に気がつけるのか。好奇心をもって様々なものを見ることが小説に大切。



あ「綺麗な事件については構わないが、ドロドロだと実際の土地を出すのは申し訳ない。大都市だと意識は和らぐけれど」

よ「土地のイメージは面白い。街の大まかなイメージをつかむのが楽しい」

あ「駅前の地図を見るのが好き。いろいろなコミュニケーションがある」


ミステリがミステリになる瞬間は? ドライブする瞬間を知りたい。

自伝エッセイに綴ったように、書くべきものはない。
波乱万丈ではない。小説のようなエッセイ。

あ。中身が濃くて受賞するのも大変そう。面白かった。
面白い本をハンティング
豊かな読書体験、現実との結びつきから今日があると感じた。


文章の秘密や工夫は?

有栖川氏
狙って書いていると思われないように気にしていない。ダメな文章が入らないようにしている。ダメを潰していく、良い文章は基本的にアドリブ。書こうとした瞬間に、現れる。
待つしかない。1冊に何度出るかわからないけれど、ダメな文章は無いようにしている。良い格好の文章を残すこともある。
デリケートな修正。ノイズの排除。
作風による。板についているかどうかにもよる。
基本的には、ダメな文章を書かないようにして、良い文章を待つ。小説は順番によって面白くなったり微妙になったりもするから。

米澤氏
人それぞれだと思う。
文章哲学はにている。ダメな文章を書かない=文章に芸をさせない。
ふつうの文章で表現する。内容で表現する。
思いが先走ったもの・わかい文章・酔った文章になることが多い。主語・述語・体言止めをあまり使わない。複文を使わない。それでも、魔法はかかってくれる。
文章で芸をするのが悪いとは思わないが、基本ができてから。



よ「景色の順番の描き方が印象的」

あ「ごめん、どうやって書いたか覚えてない。笑」


ふたりの共通点は?

米澤氏
あまり奇妙で人を驚かせようとしないところ。
抑制の美学がある。

有栖川氏
おこがましい。笑



あ「ずっと続けているシリーズについて広がりや長さは米沢さんが圧倒的。フィールドが広く感じる」

よ「版元をまたいでいないだけ笑」

あ「どんどん名探偵を書きたい欲求が大きい。同じ探偵を長く活躍させる仕事でもないし」

よ「一大叙事詩のような?」


デビュー作で探偵役に学生を選んだ理由は?

有栖川氏
学生時代に書いた作品のリライトだから。それがスライドしただけ。書きやすかったし、29デビューだから、10歳の年齢差に不安はあった。

米澤氏
同じく学生時代に書いたから。小学生を書く時には中学生を書く。中学生を書く時には高校生を書く・高校生を書く時には大学生を書く。大学生を描くには小学生を書くようにしている。
リアルの学生を書いて面白いかというわけではない。小学生を主人公にするには中学生くらいの思考力・観察力を持っているように書けると、主人公にちょうど良い世界を与えられるのではないか


あ「『神様の罠』の『崖の下』は、新しい名探偵像ですか?」

よ「実際の手続きの中で解決できる。すべてを束ねるのが名探偵の役割。クロフツやヒラリー・ウォーを読んできた立場だから、そう思っている。また、大人が事件にかかわることに対して、仕事だからという理由を取り入れたら引き締まると思った」

あ「現代のイギリスミステリーはやっていることが名探偵。次から次へと事件にかかわるのは仕事だから……とするのが自然でやりやすい。『崖の下』はまさに海外ミステリの感覚。警察が出てこないから面倒がないけれど、物足りないとも思う。
米澤さんならやるだろうと思った」


おわりに

大きく編集しましたが、文意やニュアンスは変えないように心がけました。
〝ミステリー地図〟に惹かれて申し込んだ対談視聴。
『黒牢城』『捜査線上の夕映え』の裏話、成分不明の〝魔法の粉〟など、気になる話題・ワードが飛んできましたので大変興味深く拝聴しました。
以下、登場した作家名・作品名です。(漏れがあったらすみません!)
ご興味がありましたら、ぜひご参考に。

三毛猫ホームズシリーズ
 →有栖川氏「黒田・荒木のコンビに最も近いのでは?」

トマス・フラナガン
『北イタリア物語』
 →『有栖川有栖の密室大図鑑』より

F.W.クロフツ
ヒラリー・ウォー
 →米澤氏「ヒラリー・ウォーよりもクロフツに近いのでは?」

『有栖川有栖の密室大図鑑』

G.K.チェスタトン
 →『有栖川有栖の密室大図鑑』より引用

『米澤屋書店』

朝井リョウ
 →米澤氏との対談にて、「〝魔法〟がかかった作品がある」

『満願』
 →有栖川氏「『満願』にはすべて魔法がかかっている」「松本清張の初期短編のイメージだったが、話を聞いてさらに納得。ランダム具合が気持ちよく、もっと気に入った」
  米澤氏「ミステリは多様さが魅力。ランダム性を感じてもらえてうれしい」

連城幹彦
 →景色の解像度が高い

『戻り川心中』
『煙の殺意』
 →『満願』執筆秘話、『戻り川心中』を書いてほしい編集者&「『煙の殺意』を書きます!」と米澤氏

大山誠一郎
 →『ワトソン力』を読んでからすっかりファンです。『アリバイ崩し承ります』シリーズも楽しく拝読しました。ありがとうございます。

『本格ミステリの王国』
 →〝ミステリー地図〟のきっかけ

山田風太郎
 →〝ミステリー地図〟に荒野が広がる?

『カナダ金貨の謎』
 →質問にて引用。あ「実在の地を舞台にするのは……」

『神様の罠』
 →積ん読です早く読まねばぁああああ! アンソロジー参加者が豪華すぎて購入だけで満足してました!




以上です。
恥ずかしながら、積ん読ふくめて未読が多いもので……。読まねば。

それでは、失礼仕ります。

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