【登場人物】
小野寺彩映(29)……東京地方検察庁の捜査担当検事。本作の主人公
鰤谷優希(34)……検察事務官。小野寺彩映を担当。お調子者
小野寺道信(64)……小野寺彩映の父で弁護士。「冤罪の鬼」の異名を持つ
東出郷司(21)……大学生。被疑者。河北雪菜を殺害した容疑で逮捕される
木下兼(20)……大学生。東出郷司の友人
河北雪菜(21)……大学生。被害者。マフラーで首を絞められ殺される
弓仲千紘(21)……大学生。河北雪菜の友人
倉持繭(21)……大学生。河北雪菜の友人
1 ベンロクでカンモク
手錠を嵌められ、警察官に連れて来られたその男は、暗い影を纏っていた。
第一印象を一言で述べるとしたら、「最悪」である。
はじめて逮捕される彼にとって、慣れない手続だろうし、未だかつて検察官という人種に接したことはないだろうから、緊張し、態度が硬直することは理解する。
しかし、目の前のこの男に関しては、決してそうではない。一目で分かる。
検察官である私に対し、わざと閉鎖的な態度をとっているのだ。
私が視線を送っているにも関わらず、頑なにこちらを見ようとしない。壁に面したカウンター席に座るかのような振る舞いである。
それは、何を聞かれても話さない、という露骨なまでの意思表示だった。
男は、私の方を見ないまま、ゆっくりと椅子に腰掛けた。
私は、一呼吸おいてから自己紹介をする。
「検事の小野寺彩映です。あなたの事件を担当することになりました」
男からは挨拶はおろか反応の一つも返ってこない。
「これから弁解録取の手続を行います。被疑者であるあなたには黙秘権がありますので、答えなたくない質問には答えなくて大丈夫です」
私は、台本通りに黙秘権の告知を済ませると、そのままの流れで最初の質問をする。
「名前と生年月日を教えてください」
「……」
まさか、それすらも喋らないつもりなのか。私は、隠せないほどの苛立ちを覚える。
「言っておきますが、名前と生年月日は黙秘権の対象ではありません」
「……」
「逮捕された時にあなたが持っていた免許証を見ればすぐに分かるんですが」
「……東出郷司。2000年8月6日生まれ」
私は、ホッとしたような呆れたような気持ちでため息をつく。
「それじゃあ、東出さん。あなたに対する被疑事実を読み上げます」
私は、手元にある逮捕状に目を遣る。
「令和3年12月24日14時30分頃、東京都江東区新木場○丁目×番の▲運動場において、マフラーを用いて、あなたと同い年の女性である河北雪菜さんに対して、殺意を持って首を絞め、よって河北さんを死に至らしめた」
被疑事実は、刑法199条の殺人罪である。人口密集地の東京で検事をやっていても、滅多にお目にかかれない重罪だ。
普段回ってくる事件は、ほとんどが窃盗か薬物か性犯罪であり、人の死が関わるものであっても、せいぜい過失致死か傷害致死である。ドラマの世界と違い、実際の社会では、誰かに明確な殺意を抱き、かつ、実行に移す人はほとんどいないのである。
東出は、普通の見た目である。
地味でも派手でもない、街を歩いていたら確実にすれ違いそうな量産型の大学生だ。強いて特徴的なところを挙げるとすれば、切長の目と、几帳面に切り揃えられたマッシュルームヘアだろうか。イマドキの女子大生にはこういうタイプがモテるのかもしれない。
少なくとも、見た目だけから判断すれば、東出は殺人犯には見えなかった。
もちろん、仕事柄、そのような方法で被疑者を値踏みしてはいけないのだが。
「東出さん、今私が読み上げた被疑事実にどこか間違っている点はありますか?」
これまでの態度から予想された通り、しばらく待っても、東出からの反応はない。
「あなたは河北さんを殺したんですか? 殺してないんですか?」
「……」
「殺したかどうかも分からないということですか?」
「……」
東出のあまりにも頑なな態度に、舌打ちが出かける。
ここで黙り込むことに一体何の意味があるというのか。
「東出さん、ここで黙秘する人も普通はいませんよ。やっていないならやっていないと言えばいいじゃないですか」
「……やっていません」
消え入るような声だったが、それでもようやく言葉が出てきた。
「あなたは河北さんを殺してないということですね?」
「……はい」
「マフラーで首を絞めてもいないということですね?」
「……はい」
――なるほど。そうきたか。
これもドラマの世界とは違うが、実務においては、被疑者が犯行を自白する「認め事件」がほとんどである。無実を主張する「否認事件」は珍しい。日本の法律を理解していなかったり、日本の司法制度を信頼していなかったりするがゆえに、特に理由もなく否認をする外国人がたまにいるくらいである。
「では、あなたは、どうして河北さんは死んでしまったと考えているのですか?」
「……」
「あなた以外の誰かが彼女を殺したんですか?」
「……」
最低限の否認だけした後は、また貝殻に閉じ籠るつもりらしい。
理由も付けずにひたすら「違う」と言い張るだけだったら、幼稚園児でもできる。
仮にここが取調べの場であれば、ここからが本番である。
しかし、弁解録取手続においては、そこまでやる必要はない。ここですべきなのは、勾留請求をするかどうかを決めること、つまり、この男をこの場で解放するか、しばらく留置施設に入れておくべきかどうかを判断する。それだけだ。
殺人事件であり、しかも否認事件。留置施設に留め置き、みっちりと取調べを行う必要がある。勾留請求をしないという選択肢はハナからない。
「東出さん、本日付けであなたに対して勾留請求をします。明日の朝、あなたは勾留質問のために東京地方裁判所に行って……」
私が勾留手続について説明している間も、東出はずっと俯いたままで、果たして私の話を聞いているのかどうかも甚だ怪しかった。
2 手作りマフラー
「ああ。もう!」
私は、風呂敷で包まれた記録を机にバンっと叩きつける。検察庁においては、書類は風呂敷に包んで持ち運ぶのが慣例となっている。
「イロハ検事、イライラしてますか?」
ディスプレイを見つめながら、なおかつブラインドタッチをしながら、私に声を掛けた小太りの男性は、鰤谷優希。
私とタッグを組む事務官である。
「ええ。よく分かるわね?」
「イロハ検事は、気持ちがすぐ態度に出て、分かりやすいですから」
鰤谷の台詞に、イライラがさらに増す。
事務官は、検察官を補佐する仕事であり、その意味では、鰤谷は私の助手のようなものなのだが、29歳の私よりも、彼の方が5つ年上である。人生の先輩は向こうだ。「生意気だ」と注意して良い関係なのかどうか悩むところである。
そもそも私を下の名前で呼ぶことを許してしまっている時点で、時すでに遅しという感も否めないが。
「東出郷司の弁解録取をしたんですよね?」
「ええ」
「殺人事件ですよね?」
「ええ。しかも否認」
「それはそれは」
「しかも完全黙秘」
「三拍子揃いましたね」
「何言ってるのよ。三重苦よ」
鰤谷はたるんだアゴの肉を震わせて笑っているが、全くもって笑い事ではない。
七面倒な要素が揃い踏みなのである。
この案件に時間を取られるせいで、日頃の事件処理が大幅に遅れてしまいかねない。
その上、重大案件であるがゆえに責任も重大である。
もしも証拠不十分で起訴ができないということになれば失態だし、起訴したところで無罪となってしまえばさらに大失態である。その場合には、上司のねちっこい説教と、地獄のような人事評価が待っているだろう。
「こんなハズレくじってある?」
「まあ、イロハ検事なら大丈夫ですよ。優秀ですから」
自分が優秀であることは自覚している。大学2年生で予備試験を合格し、そのまま大学在学中に司法試験も合格している。エリートの集まりである法曹界の中でも、私は上澄みの方にいる。
司法試験に3連敗した上で、諦めて事務官の道を選んだ鰤谷から見れば、私は雲の上の存在かもしれない。
しかし――
「私が優秀だとしても、カンモクされちゃうと何もできないわ」
「たしかに……」
捜査担当検事である私の仕事は、起訴に必要な証拠を収集することである。そのためには取り調べが欠かせない。自白を取るのもそうだし、物的証拠を探すにも、被疑者の証言を基にしなければ難しい。
取調べにおいて完全黙秘されてしまうと、被疑者から何も聞くことができないため、仕事すらさせてもらえないのである。
「東出は、警察での弁解録取でもカンモクだったらしいですよ」
「ふーん。野蛮人にも屈しないなら、私じゃどうすることもできないわね」
「イロハ検事、警察官のことを野蛮人扱いですか……」
「繊細でか弱い私と比較すると、っていう話よ」
少しお茶を濁したが、私は、内心、警察官は乱暴な存在だと思っている。
取調べにおいては、自白の強要まではしていないとしても、それに近いことはしていると感じる節は結構ある。彼らは被疑者に対して、平気で、威圧的な態度をとったり、荒々しい言葉を使ったりする。
もっとも、警察官の気持ちもよく分かる。
会う人会う人みんな犯罪者なのである。いくら「無罪推定原則」があるとはいえ、「どうせやってるんだろ」という疑心を持ってしまう。実際にほとんどの割合の人が「やっている」のだから、いくら人権保障のためとはいえ、丁寧に話を聞いていくことに徒労感すら覚えるだろう。
警察官が、被疑者に対して乱暴な態度をとるのは致し方ない部分がある。そうしないと仕事が回らないし、被疑者にナメられてしまえば仕事にならないのだ。
「イロハ検事、今回みたいにカンモクされている場合には、どうするんですか?」
「どうしても喋らない場合には、自白には頼らないで、客観的証拠のみを使って起訴するしかないわね」
「なるほど。今回の殺人事件には、客観的証拠があるんですか?」
「そうね」
私は、風呂敷の包みを解くと、中から紐で綴じられた資料を取り出す。
裁判所に対して逮捕令状の発布を求める際に提出されたものの写し一式だ。
席を立った鰤谷が、私の机の横に来て、パラパラとページをめくるのを覗き込む。
私は、ページをめくる指を止め、写真を指差す。
「鰤谷、これが客観的証拠よ」
「……マフラー……ですか?」
「そう」
写っていたのは、赤い毛糸のマフラーだった。
遠目に見ると赤と黄色の単純な縞模様であるが、まじまじ見てみると、白や金色などのほかの色も繊細に入り混じっている。
「これが今回の凶器なの」
「犯人は、マフラーで被害者の首を絞めたんですか?」
「そのとおりよ」
このことは間違いがない。司法解剖をした医師による鑑定書によれば、被害者の死因は窒息死であり、首についていた索状痕は、凶器が太めかつ柔らかい紐状のものであったことを示していた。
そして――
「被害者の首に付着していた繊維と、写真に写っているマフラーの繊維とが完全に一致しているの。ゆえに、このマフラーが凶器であることには疑いはない」
しかも、記録によれば、このマフラーには珍しい毛糸が使われているとのことだ。
「……それで、どうして、そのことが東出が犯人であることの証拠になるんですか?」
「このマフラーは東出の所有物なの」
「なるほど」
極めて単純な話である。
用いられた凶器の持ち主は、普通に考えれば犯人である。
「東出以外の誰かが、東出からマフラーを盗み、それを犯行に用いた可能性はないんですか?」
「それはないわ」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「マフラーは盗める状態じゃなかったの。ロッカーの中にあったからね」
「ロッカー……ですか? 現場にロッカーがあったんですか?」
私は、数ページ資料を前に遡り、別の写真を鰤谷に示した。それは、犯行現場付近の航空写真である。
「緑が多いですね」
「公園だからね。とても大きな公園」
「陸上用のトラックもありますね」
「そうね。ここは運動場のついた公園だから」
新木場駅を降りてすぐにある、巨大な公園である。
陸上用のトラックだけでなく、野球のグラウンド、サッカーのグラウンド、テニスのコートが何面も整備されている。加えて、ジムや温水プールが入った建物まである。円周の長い散歩コースもある。
「犯行の直前直後、東出は、ここのグラウンドで野球の練習をしていた」
「東出は野球部なんですか?」
「野球サークルね。練習はかなり緩かったみたいよ。とはいえ、さすがにマフラーをつけながら練習するほどではなかったみたいだけど」
「ということは、東出は、練習中はマフラーを外していたわけですね」
「ええ。そして、他の着替えと一緒に、グラウンドのすぐそばの小屋にある鍵付きのロッカーにしまっていたの」
このことについては、東出と練習をしていた複数のサークルメンバーの証言がとれている。ロッカーにしまっている瞬間を目撃した、という直接的な証言まである。
「被害者の死亡推定時刻は14時15分〜14時45分の間。東出が野球の練習をしていたのは、13時00分〜15時00分の間だから、被害者が殺された時間には、マフラーはロッカーの中にあったはずなの。東出が鍵を管理しているロッカーにね」
ロッカーの鍵には、腕に巻くゴムが付いており、彼は肌身離さずに鍵を持っていた。
「ということは、東出が、14時15分〜14時45分の間に、野球の練習を抜け出し、ロッカーのある小屋に行き、ロッカーの鍵を開け、マフラーを取り出し、そのマフラーを使って被害者を殺害し、そのまま練習に戻ったということですか?」
「そういうことね。被害者の遺体が見つかったのは、公園内の茂みで、東出が練習していたグラウンドからは150メートルしか離れていないところなの」
遺体が発見された時刻は、18時20分。死亡推定時刻から4時間ほど経っているのは、遺体が茂みの深くに隠すように遺棄されていたからである。公園の利用客はその付近を幾度となくその付近を通っていたが、ついに遺体を発見することはなく、遺体を発見したのは、日が暮れてから訪れた公園の清掃員であった。
「それに、サークルメンバーの証言によれば、東出は、練習の途中、『飲み物を買いに行く』と言って、それなりの長時間、グラウンドから離れていたそうよ。その間に被害者を殺害することは十分に可能だわ」
うーん、と鰤谷が眉間に皺を寄せ、考え込む。
私が説明したストーリーに何かしら引っかかる点があるのだろう。
もちろん、私にだって疑問がないわけではない。
たとえば、なぜ被害者に会う直前にわざわざロッカーからマフラーを取り出したのか、ということがよく分からない。マフラーを凶器するつもりだったということだろうか。否、最初から被害者を殺すつもりだったのだとすれば、刃物などのもっと凶器らしい凶器を用意するのが普通だろう。衝動的な犯行にしては準備が良すぎるし、計画的な犯行にしては準備が悪すぎる。
このような細かい疑問点については、本来であれば、被疑者を取り調べる中で明らかにするものである。しかし、今回はカンモクであるため、そのあたりの違和感には目を瞑った上で、起訴まで持っていかざるをえなくなりそうだ。
ようやく鰤谷が口を開く。彼の疑問点は、私とはだいぶ観点のズレたものだった。
「イロハ検事、被害者の死亡推定時刻が絞られすぎていませんか? 14時15分〜14時45分ってかなり具体的な気がします。幅も30分しかありませんし」
「それもそうね」
私は、斜め読みで資料をもう一度見返す。
鰤谷の疑問の答えは、被害者の司法解剖の結果を記した鑑定書、それから、被害者の友人の証言を録取した書面から導くことができた。
「分かったわ。今回、被害者の死亡時刻を特定するのに使われたのは、被害者の胃の内容物よ。被害者が食べたパスタの消化の具合から、死亡時刻を特定したの。池袋のレストランでカルボナーラを食べた時間が12時半頃だったことは、被害者と二人でランチをした友人である弓仲千紘が明確に証言をしているわ」
さらに、弓仲の証言書には、彼女がスマホで撮影した画像も貼付されていた。それは右手のフォークでカルボナーラを巻き、左手でピースをする被害者の画像である。その画像が保存された時刻が12時25分だった。弓仲の証言は信用できそうである。
「被害者が死んだ時、パスタを食べてから大体2時間弱経ったくらいの消化具合だった、ということね」
「なるほど。たしかに食べてからそこまで時間が経っていないのだとすれば、それなりに具体的な特定ができそうですね」
あと、と鰤谷はさらに違う質問をする。
「犯行に使われたマフラーが、東出のマフラーそのものではなく、同一製品だった、ということはありえないんですか? 同じメーカーの同じ製品だったら、使われている繊維も同じはずですよね」
それについては、私も最初に記録を読んだ時に検討したが、今回の事案についてはその可能性はない。なぜなら――
「鰤谷くん、今回犯行に使われたマフラーは、手作りマフラーなの」
「……言われてみると、良い意味でゴワゴワしていて、手作りっぽかったですね」
「そうでしょ。世界で一つだけの手作りなの。しかも、このマフラーは一種類の毛糸だけではなく、何色もの毛糸が使われているわ。このマフラーと繊維が完全に一致するマフラーというのは、普通に考えて他に存在しえない」
加えて、記録によれば、使われていた毛糸のうち一種類は、国内では市販されておらず、スウェーデンのサイトから取り寄せたものだったとのことだ。偶然の一致は考えられないだろう。
「じゃあ、やっぱり東出が犯人で間違いなさそうですね。無理に自白を取らなくても起訴できそうでよかったです」
「まあね」
自白があった方が安心ではある。
しかし、東出のあの頑なな態度が最大20日間の勾留期間で崩れるとも思えなかった。
さらにしっかりと記録を読み込み、足りないところについて警察に補充捜査を頼めば、客観的証拠はさらに固まるだろう。不確定要素の大きい裁判員裁判案件であるとはいえ、有罪の結論は固いように思えた。
「そういえば、イロハ検事、動機はなんですか?」
「動機?」
「東出が被害者を殺害した動機です」
「ああ」
被疑者がカンモクしている以上、通常それは知りえないものである。
しかし、本件では――
「そんなの無限に考えられるわ。だって、東出と被害者は恋人同士なんだから」
被害者である河北雪菜は、東出と同じ大学に通っており、東出とは恋人同士だった。このことは、河北の友人である弓仲も、東出の友人も、ともに証言している。
恋人同士は時に愛し合い、時に殺し合う。
いわゆる「痴情のもつれ」というやつである。その中身は千差万別であり、本当のところは当事者にしか分からないものである。
あ、と鰤谷が短く声をあげる。
「もしかして、凶器に使われたマフラーって……」
私はニヤリと白い歯を見せる。
「お察しの通りよ。このマフラーを作って東出にプレゼントをしたのは被害者なの」
「……それは筆舌に尽くし難いものがありますね」
「そうね。自分が愛情込めて作ったマフラーによって、自分自身の首を絞められるのはどんな気分なのかしらね。とても興味深いわ」
でも、と私は続ける。
「残念ながら、遺体もカンモクなの」
3 苺のショートケーキ
東出の弁解録取を行ってから、1週間が経っていた。この間、警察官は毎日取調べを行なっているが、東出は口を閉ざしたままだという。
昨日、私は、東出の弁護人に電話を掛けてみた。
私より20歳も上ではあったが低姿勢で、人の良さそうな先生だった。
彼は、「弁護人にも何も話してくれないんですよ」と苦笑いをしていた。公判でも否認をする予定かを訊いたところ、「分かりません。その前に解任されちゃうかもしれません」と冗談混じりに答えた。弁護士報酬がほとんどもらえない国選弁護で手間暇のかかる否認事件というだけで不憫なのに、その上、依頼者との信頼関係が構築できないというのは目も当てられない。
明日、東出を再度検察庁に呼ぶことになっている。
勾留が満期となり、さらに10日間延長するかどうかを判断するタイミングだからだ。
私が取り調べたところでどうせカンモクだし、勾留を延長することは決めていたので、呼ぶ意味はあまりない気はする。かといって、手続を飛ばすわけにもいかない。
別件で昼間が塞がってしまったため、私は、東出の件の記録検討のために、残業をすることにした。
すでに鰤谷は帰宅していたので、部屋には一人きりである。
先ほど庁舎内の自動販売機で買ってきたばかりの、熱々のブラックコーヒーを啜りながら、独り言を呟く。
「こんな日に恋人同士で何してるんだか……」
河北が殺されたのは、12月24日だった。クリスマスイブである。
恋人達は愛し合ったり、殺し合ったりする存在だとしても、せめてこの日だけは愛し合うべきではないだろうか。
この日の夜、2人はデートをする予定だった。
そのことは、東出本人と河北本人が喋らずとも、東出の友人も河北の友人もそのように話しているから間違いない。東出の友人である木下兼は、デートの内容が、河北の自宅でのお泊まりの予定だった、とまで具体的に話している。東出が嬉々として話していたとのことだ。表参道やお台場の人混みは避け、おうちデートというのは今風だな、とぼんやり思う。
河北の家は、江戸川橋にある。
事件があった新木場からは、有楽町線で1本とはいえ、電車を使って30分程度かかる。
そして、河北が友人の弓仲とランチをした池袋は、同じ有楽町線上で、新木場から見ると、江戸川橋よりもさらに3駅離れている。
弓仲とランチをした後、河北が新木場の運動場にまで向かったのは、野球の練習を終えた東出を迎えに行くためだったのだろうか。練習が終わる予定時間が15時で、殺された時間が14時15分〜14時45分頃なので、迎えに行くにしては少し早い気もするが、早めに着いて、彼氏がスポーツに打ち込んでいる姿を見たかったということかもしれない。
鰤谷にも話した凶器のマフラーの関係からして、犯人は東出で間違いないものと思われる。
では、なぜ東出は、運動場に迎えに来た恋人を殺害したのだろうか。
突発的なケンカ、というのが、一番しっくりくる。
先ほどの「事情通」の木下は、東出は河北にゾッコンだったと話している。河北は、顔の造りが全体的にこじんまりとしており、お世辞にも美人とは言えなかったが、たしかにこういう地味なタイプの女子が好きな男子は一定数いるのかもしれない。もしくは、性格がとてつもなく良かったとか。
いずれにせよ、河北にゾッコンな東出が、おうちデートの直前に、計画的に河北を殺すとは到底思えない。
犯行は衝動的なものに違いないだろう。頭に血が上ってやった、というパターンである。そのきっかけが、河北の落ち度によるものなのか、東出の落ち度によるものなのかは分からない。蓋を開けて見てみると、人を殺す理由にはなりえないような、しょうもなく些細なすれ違いかもしれない。
もっとも、衝動的な犯行だとすると、なぜ東出はロッカーからマフラーを取り出したのだろうか。
寒かったから、というのはあるかもしれない。事件があった日は晴れてはいたが、最低気温は5度である。
恋人が運動場まで迎えにきたので、東出はそれを出迎えた。その際に、肌寒さを感じたため、ロッカーからマフラーと上着を出し、それを着用し、恋人の元へと向かった。
ありえる話だとは思うが、とはいえ、直前まで野球をプレーしていたのだから、身体はある程度火照っているように思う。
そして、上着を羽織るならまだしも、マフラーまで巻くだろうか。
東出は、一時的に練習を中座しただけなのである。河北に会って、その後また練習に戻るつもりだったのだ。もしも練習を切り上げて早退するつもりだったのだとすれば、その旨をサークルのメンバーに伝えるはずだが、サークルメンバーは誰もそのような証言をしていない。
短時間恋人と落ち合うために、わざわざマフラーまで巻くだろうか、というのが私の疑問である。矛盾とまでは言えないかもしれないが、何だか腑に落ちない。
弁解録取から1週間が経っているので、取調べは不発だといえども、警察の捜査はそれなりに進んでいる。
そのため、弁解録取の際には私の手元になかった追加の捜査資料が、いくつか事件記録の綴りに加わっている。
そのうちの1つは、警察が、事件の3日後である12月27日に、河北の自宅アパートに入った際の報告書だった。
被疑者宅を捜索するならまだしも、被害者宅にまで立ち入るなんて、と善良な市民には引かれそうだが、報告書の冒頭には、立ち入りの動機として、被害者遺族の強い要望があったことが記されている。
娘のプライベートについてそっとしておいて欲しい、という気持ちはあるはずだが、それ以上に、娘の死の真相を知りたいという気持ちが上回ったということだろう。
「娘は引っ込み思案でおとなしく、トラブルに巻き込まれたり、人様から恨みを買ったりするようなタイプではありませんでした。そんな娘が誰かに殺されただなんて信じられません」
というのは河北の母親談。父親も同様の供述をしている。
警察の立ち入りは、被害者の両親の立ち合いの下で行われていた。
河北の部屋の鍵は閉まっていたが、両親の同意の上、死亡時に河北がポケットに入れて所持していた鍵を使い、中に入ったとのことである。
両親は合鍵を持っていなかったのか、と一瞬不審に思ったが、両親は鹿児島に住んでおり、河北が江戸川橋のこの部屋に越してきてからまだ1年と経っていなかったから、河北の部屋に招かられたことは今までなかったのだという。
立ち合い時の捜査報告書には、警察官が撮影した写真が羅列されている。
何の変哲もない女子大学生の一人暮らしの家である。色合いとしてはピンクが多いように思うが、かといって、統一がされているわけではない。デザインに凝っているというよりは、安物の家電や家財道具を最低限のコストで揃えているという印象だ。
河北には、際立った趣味や異常な収集癖などはなさそうである。
あまり面白くない報告書だなと思いつつも、次々とページを捲っていた私は、1枚の写真に釘付けになる。
「……どういうこと?」
それはおそらく警察官が、必要性もあまり考えず、何の気なしに撮影した写真だろう。写しているのは、冷蔵庫の中なのである。事件との関連性は見出し難い。
とはいえ、その1枚の写真は明らかな矛盾だった。
それは、冷蔵庫の中にある白い紙箱を写していた。
箱には見覚えのある赤字のロゴマークが付いている。有名なチェーンのケーキ店のロゴである。そのチェーン店は、河北の家の最寄駅である江戸川橋駅の近辺にもあり、そこで購入されたものと見て間違いないだろう。
被害者の部屋の冷蔵庫にケーキがあること自体は何の不思議でもない。
その次に貼られた写真には、箱の中身が写されているが、それも何の変哲もない、ホールのショートケーキだった。大粒の苺がふんだんに添えられている。
問題は、その箱に貼ってあった、ケーキの製造時間と消費期限が書かれたシールである。消費期限に加えて、製造時間まで書かれているというのは、あまり一般的ではないかもしれない。とはいえ、ケーキのように数時間刻みで消費期限が訪れる生モノでは珍しいことではない。
その感光式のシールに書かれた製造時間が、12月24日15時30分となっていたのである。
その時間にはすでに河北は死んでいる。
そうである以上、このケーキを購入し、河北の部屋の冷蔵庫に入れたのは、河北以外の誰かということになる。
ここで矛盾が生じる。
河北のアパートの鍵は、河北の遺体のポケットの中にあった。具体的には、コートの右ポケットの中である。
そして、警察が立ち入る前、河北の部屋の鍵は閉まっていた。
河北は、家を施錠した上で、鍵を持って新木場に出掛け、そこで殺されたということである。
つまり、ケーキが河北のアパートに持ち込まれた時点で、河北のアパートは密室なのである。
何者かが河北の部屋に入り、冷蔵庫にケーキを入れることは、物理的に不可能なのだ。
ちょっと待てよ、スペアキーがあるはずだ、と気付く。賃貸アパートで部屋を借りるときには、鍵を2つ以上もらうことが通常である。
私は、報告書を隅々まで読み込む。すると、スペアキーは2つとも、透明の袋に入った状態で、河北の部屋の戸棚にしまってあったとの記載があった。
やはり密室である。
鍵を持っていたのは河北だけなのだ。
いやいや、まだ待て。もしかしたら、入居後、合鍵を作っていたということも考えられるではないか。
先ほど記録全体を眺めている時に、どこかで「合鍵」という文字を見たような気がする。私は、パラパラとページを遡る。
――あった。見つけた。
「合鍵」の文字は、河北の友人である倉持繭の証言を記した書面の中にあった。警察の事情聴取に、彼女が任意に答えているものだ。
そこには、このように記載してあった。
「事件の1週間前、雪菜は、私に、『家の合鍵を渡せるほどの関係性の人はいない』と話してました」
それは私の期待を裏切る証言だった。
若い女性が合鍵を作って渡すとすれば、それは恋人に渡すに決まっている。
しかし、河北は、恋人である東出にも合鍵を渡していなかったのだ。東出とはそこまでの関係性ではない、と、ハッキリと友人に話していたのである。
それに、よくよく考えれば、予備の鍵があるのだから、恋人なり友人なりに渡すとすれば、予備の鍵を渡せばいい。わざわざ費用を掛けて合鍵を作成する理由はない。
どう足掻いても、「密室のショートケーキ」の謎からは逃れられないのである。
密室に突然現れたケーキ。
別にこのことは、殺人事件の本筋とは関係がない。
事件の現場は、新木場の公園である。被害者のアパートからは、電車を使って移動して35分程度。車で移動しても20分以上はかかる。アパートの部屋で何が起きようが、事件とは関係がない。
そして、見つかった物自体、ただの苺のショートケーキなのである。これが禁止薬物などだったらきな臭さが漂うところだったが、ショートケーキがどのようにして殺人事件と関与しようか。
そう考えると、密室にショートケーキが現れようが、そんなこと捜査上はどうでもいいのである。お化けの仕業だと片付けてしまっても、本件との関係では一向に構わないのだ。
しかし、一旦気付いてしまった以上、どうしても気になってしまう。
このケーキの存在を、なんとかして合理的に説明することはできないだろうか。
あることに集中すると、それ以外のことが頭に入らなくなるタイプである。私は、頭の整理のために、これまでの情報を時系列表にまとめた。
…………
時系列表
【12月24日】
12時25分 池袋にて、友人の弓仲千紘とランチをする河北が撮影される
13時00分 新木場のグラウンドにて、東出が野球の練習を開始
マフラーは鍵付きのロッカーにしまった状態
途中、「飲み物を買いに行く」と言って中座
14時15分 河北が殺害される
〜14時45分 死因は、マフラーによる窒息死
15時00分 東出が野球の練習を終える
15時30分 江戸川橋のケーキ屋でショートケーキが製造される
18時20分 新木場の公園の茂みにおいて、河北の遺体が発見される
遺体は、一般利用者の目には届かない茂み深くにあった
遺体の第一発見者は清掃員
遺体のコートのポケットには、河北の部屋の鍵が入っていた
【12月27日】
施錠された河北の部屋(江戸川橋)の冷蔵庫でショートケーキが発見される
…………
4 検察官の役割
「東出さん、久しぶりです」
「……」
1週間ぶりに検察庁に訪れた東出も、相変わらずの態度だった。
見た目に関して言えば、多くの被疑者がそうなのであるが、1週間前よりも痩せており、覇気がない印象を受ける。警察署内にある留置施設はお世辞にも良い環境とは言えず、海外からは「代用監獄」として厳しい批判を受けているところである。1週間という期間は、東出のエネルギーを吸い尽くすには十分だったようだ。とはいえ、今日私がさらに勾留延長を請求すれば、彼はもう10日間「代用監獄」に「収容」されることとなる。
テーブルを挟んで、私の目の前の席に腰掛けた東出は、やはり私と目を合わせようとしなかった。口を閉ざしたまま、取調べが終わるまで耐え続けようと考えていることは火を見るよりも明らかだ。
実際に、ここ1週間、警察官相手に彼がそうしてきたように。
事件のことを質問しても黙秘されることは分かりきっていたが、職責を果たさないわけにもいかない。
無意味な黙秘権の告知を済ませた後、私は、「被害者との関係は?」「サークルの練習を途中で抜け出した?」「被害者とは何時に待ち合わせた?」など一通りの質問をし、質問と同じ数だけ無視をされた。
さすが「野蛮な」警察からの連日の取調べをカンモクで掻い潜っているだけあり、東出は、私の質問に対して表情一つ変えなかった。
私がイラついている様子を演出し、ボールペンのノック部分をカチカチしてみても同様である。
実際のところ、私の頭には少しも血は上っていない。
今のところ、全てが予想通りの展開である。むしろ順調だ。
私は、ついにあの質問を東出にぶつけることにした。
今までの質問は、すべてこの質問のための布石だと言っても過言ではない。
「東出さん、河北さんの家に苺のショートケーキを持って行きましたか?」
「……」
今までの質問と同様に、東出の対応は黙秘であった。
しかし、彼の態度は明らかにそれまでとは違っていた。
はじめて顔を上げて、私の目を見たのである。
今までの質問では見れなかった反応が見られたということは、彼に何らかの心当たりがあるということだ。
私は机に乗り出す。
「苺のショートケーキについては今まで誰も訊いてこなかったですよね? だから、今あなたは驚いていると思います。警察官は、ケーキは今回の事件とは無関係だと考えているし、おそらくあなたも同じように考えています。だけど、私は違います」
東出は、じっと私の目を見たままである。それは怯えた目だった。
彼は、私のことを誤解しているに違いない。
「もしこのショートケーキを買ったのがあなただとすれば、このケーキは、あなたにとって有利な証拠です。あなたを無罪に導いてくれるかもしれません」
東出の怯えた表情は変わらない。そのことは私にとっては些か不本意ではあるが、致し方ない。これが検察官の宿命なのである。
私は、自分語りを始めた。
「私の父親である小野寺道信は、この業界では有名な弁護士なんです。刑事弁護のスペシャリストで、『冤罪の鬼』なんてあだ名もあるんですよ。何人もの被告人を無罪にしてきました」
東出が、今日初めて口を開く。
「……じゃあ、どうして……」
「じゃあ、どうして私は検察官になったのか、と訊きたいんですよね? 別に父親に反発したわけではありません。むしろ私も父親と想いは同じです。私も、一人でも多くの人を冤罪から救いたいんです。冤罪が放置されれば、国家権力の一方的な暴力によって、その人の人生が、その人の家族の人生が壊されてしまいます。そんな理不尽、絶対に許せません」
「……。じゃあ、どうして検察官に……」
「だから検察官になったんです」
私は力強く言った。
「日本の有罪率は99.9パーセントと言われています。これは、検察官が起訴し、公判になった場合の有罪率です。検察官が起訴した場合には、ほぼ100パーセント有罪になるんです。裏を返せば、検察官が起訴さえしなければ、有罪にはなりません。検察官が冤罪の被疑者に出会ったときに、そのことを見抜き、不起訴の判断を下せば、この国から冤罪を無くせるんです。弁護士よりも簡単に冤罪を防ぐことができるんです」
父親もよく言っていた。冤罪は、捜査担当検事のミスだと。起訴不起訴を判断する捜査担当の検事が、自白を盲信せず、正しく証拠を評価し、合理的な疑義を挟まないほどに有罪の証明ができているかどうかを見極め、慎重に起訴をするようになれば、冤罪は生まれないと。
私が、検察官になりたい、と初めて父親に伝えた時、父親は心の底から喜んでくれた。まだ引退する気なんてさらさらないのに、「俺の意思を継いでくれ」などと大袈裟なことも言っていた。
「……じゃあ、俺の冤罪も、小野寺検事が晴らしてくれるんですか?」
怯えるような目が、救いを乞う目に変わっていた。
どうやら誤解はある程度解けたようである。
「ええ。ただし、あなたが正直に話してくれればね」
捜査記録を最初から読み返してみると、東出は、参考人として任意同行され、最初の事情聴取を受けた際には、雄弁に話していた。東出がカンモクをはじめたのは、逮捕をされ、犯人扱いをされるようになってからなのである。
東出がカンモクしている理由は、彼が冤罪で、なおかつ、検察官を含めた捜査機関を信頼していないからだという可能性が十分に考えられた。
とはいえ、私も、東出が冤罪であることを確信しているわけではない。むしろ、マフラーという「動かぬ証拠」がある以上は、客観的に考えて、東出が犯人である可能性の方が高いと考えている。
今のところ、苺のショートケーキが、唯一の突破口なのである。
東出とケーキとの関わりが明らかになれば、この事件の隠された「真相」が見えるかもしれないのだ。
東出のカンモクがようやく崩れる。
「あのケーキは、俺が買って、雪菜の家に持っていったものです」
やはりケーキを河北の家に持っていったのは、東出だった。
これは当たり前と言えば、当たり前のことなのである。なぜなら、東出は、河北の恋人なのである。恋人同士、その日、河北宅で二人きりでクリスマスパーティーをする予定だったのだ。ホールケーキを持って、河北宅に行った者がいるとすれば、それは東出以外には考えにくい。
とはいえ、その事実は、東出が犯人だという考えとは矛盾する。
なぜなら、シールから確認できるケーキの製造時間は15時30分であり、河北が殺されたのは14時15分〜14時45分であるため、ケーキが購入されたのは、河北が殺された後だからである。
東出が犯人だとすれば、彼は被害者を殺害した後に、ケーキを購入し、それを河北宅に持ち込んだことになる。
あまりにも不合理な行動である。河北がすでに死亡していることを知りながら、その河北のためにケーキを買うはずがない。
ケーキを持ち込んだ者は、河北が死亡していることを知らない者でしかありえず、ましてや犯人であるはずがないのである。
「もう少し詳しく聞かせてください。東出さん、あなたは何のためにケーキを買い、何のために河北さんの家に持っていったのですか?」
「そんなの決まってるじゃないですか。あの日はクリスマスイブだったんですから、雪菜と一緒にケーキを食べるためです」
「そうだとすると、ケーキを買った時点で、河北さんがすでに死亡しているということは知らなかったということですね?」
東出はハッキリと首を縦に振る。
「ええ。もちろん。雪菜が誰かに殺されるだなんて、想像もしないですよ。俺は犯人が絶対に許せません!! 一体誰が雪菜を!!」
東出が急に口調を荒らげる。
「ちょっと、落ち着いてください」
私は、椅子から腰を浮かした東出を制止した。
東出は、興奮した様子で肩で息をしながらも、私の指示には素直に従った。
真犯人が誰かを追及するのはまだ早い。その前に、東出が無実であることをさらにハッキリさせなければならない。
「東出さん、あなたは河北さん宅の合鍵を持っていたんですか?」
「いいえ。持っていません」
河北の友人である倉持の言う通りだった。河北にとって、東出は、「家の合鍵を渡せるほどの関係性の人」ではなかったのである。東出には気の毒な話だが、彼は河北からの信頼を完全に勝ち取れていたわけではなかったのである。もしくは、彼女が特別警戒心の強い女性だったのだろうか。
何はともあれ肝心なのは――
「では、東出さんは、どうやって河北さんの家に入ったんですか?」
事件の3日後、警察が河北宅を訪れた時には、ドアの鍵は施錠されていた。
そして、部屋の中にあるスペアキーを除き、存在している鍵は、河北の遺体のポケットの中にあったものだけだった。
ゆえに、河北は、鍵を閉めて家を出た後に殺害されたことが明らかであり、東出が家を訪れた時には、鍵は閉まっていたはずである。合鍵を渡されていなかった以上、彼が彼女の家に入れるはずがない。そこはいわゆる密室なのである。
しかし、東出はあまりにも呆気なく、こう答えた。
「雪菜の家の鍵が開いてたんです」
「鍵が開いてた? 玄関の鍵が?」
「ええ。そうです」
思考の整理が追いつかなかった。私が口をパクパクさせて言葉を探しているうちに、東出が続ける。
「雪菜の家の近所でケーキを買ったのが15時50分頃で、雪菜の家に着いたのは、16時頃でした。雪菜の家に着いた俺は、最初は普通にインターホンを鳴らしたんですけど、しばらく待っても反応がなくて、何回鳴らしても反応がなかったので、留守なのかなと思い、諦めて帰ろうかとも思ったんですけど、ケーキを持ってたんで、早く冷蔵庫に入れたいなと思い、ダメ元で雪菜の家のドアを引いてみたんです。そうしたら、ドアが開いたんです」
「……それで家の中に入ったと」
「ええ」
「家には誰か人がいたんですか?」
「いいえ。家に入った後、念のため、トイレやクローゼットのある部屋も含めて誰かいないか見て回ったんですけど、留守でした。なので、黙ってケーキだけ冷蔵庫の中に入れて、一旦お暇することにしたんです」
つまり、河北は、家の鍵をかけ忘れたまま外出していたということか。不用心であることは間違いないが、それ自体は決してありえないわけではない。
問題は――
「東出さん、家を出る時、ドアの鍵はどうしたんですか」
「もちろん、そのままですよ。俺は鍵を持ってませんからね。ドアを開けっ放しのまま出て行きました」
東出は、ケーキだけを冷蔵庫に入れ、鍵を掛けないまま河北宅を出た。
しかし、その3日後、警察が訪れた時には河北宅の鍵は閉まっていた。
この間、一体誰が鍵を閉めたのだろうか。
鍵の持ち主である河北はすでに殺されており、鍵は河北の遺体とともに回収されている。まさか、河北の遺体が回収される前に、遺体のポケットから鍵を抜き出し、河北宅のドアの鍵を閉めた後、また遺体のポケットに鍵を戻したとでもいうのか。そんなことをする理由が一体どこにあるというのか。
私には、東出の話をにわかに信じることができなかった。彼の話は、決定的な矛盾を孕んでいる。
一体東出を信じて良いのだろうか。
――信じるほかない。
被疑者の話を頭ごなしに否定してしまったことが、私の先輩達がこれまで起こしてきたミスの原因なのである。偏見と傲慢が、無辜の民を檻に捕らえ、人権を蹂躙し、人生を奪ってきたのだ。
まずは目の前の被疑者の話を信じてみる。
私の「正義」はそこから始めなければならない。
5 先入観による見落とし
「さすがイロハ検事、見事にカンモクを崩しましたね!」
取調べを終えて部屋に戻った直後、鰤谷が私に両手を差し出す。ハイタッチを求める趣旨であることは明白だったが、私はあえてそれを無視し、真っ直ぐにデスクへと向かった。
彼は、私のつれない対応には慣れっこのようで、笑顔を保ったまま、私の隣のデスクに腰掛けた。
「カンモクを崩すことが私の目的じゃないの」
「イロハ検事、聞いてましたよ。実はイロハ検事は冤罪を無くすために検事をやってるんですね!」
取調べには事務官である鰤谷も同席する。私と被疑者とのやりとりを聞き、調書にまとめるのが彼の仕事である。
私の父親が小野寺道信弁護士であることは検察庁内では有名な話であるし、私が検事を志した想いについても特に隠していたつもりはない。とはいえ、鰤谷にそれが知られ、このように半分イヤミのように言われるのは心外である。
私はさらに無視を続けたが、鰤谷は嬉々として話し続ける。
「若手美人検事が挑む『密室のショートケーキ』の謎。果たして東出の言う通り、河北の家のドアは開いていたのか。僕には何が何だか全然分かりませんでしたが、イロハ検事には真相が見えているんですよね?」
「見えてないわよ」
「じゃあ、勾留は延長するんですか」
「まだ3日あるわ。この3日のうちに判断する」
「おお! 『密室のショートケーキ』の謎を3日以内に解決するんですね!」
もちろんそうなれば理想であるが、現状、私自身も何が何だか分かっていないというのが本音である。密室の中に突如としてショートケーキが現れた、ということと比べれば、部屋の鍵はずっと開いていたという東出の説明は、飲み込みやすいといえば飲み込みやすい。とはいえ、彼の話を前提とするのならば、誰がどうやって何のために鍵を閉めたのかということが問題となる。
その謎を解く「鍵」を探す必要がある。
私の手元にある中で「鍵」となりそうなものは、捜査記録である。すでに一通り以上には目を通しているが、おそらく何らかの見落としがあるのである。それを今から探さなければならない。
私は、手始めに、昨夜まとめた時系列表に、今日の取調べで分かったことをいくつか追記する。
…………
時系列表(修正)
【12月24日】
12時25分 池袋にて、友人の弓仲千紘とランチをする河北が撮影される
13時00分 新木場のグラウンドにて、東出が野球の練習を開始
マフラーは鍵付きのロッカーにしまった状態
途中、「飲み物を買いに行く」と言って中座
14時15分 河北が殺害される
〜14時45分 死因は、マフラーによる窒息死
15時00分 東出が野球の練習を終える
15時30分 江戸川橋のケーキ屋でショートケーキが製造される
15時50分 江戸川橋のケーキ屋で、東出がショートケーキを購入する
16時00分 江戸川橋の河北宅に東出が訪問する
留守だったが、鍵は空いていた
冷蔵庫にケーキを入れ、東出は家を出る
東出が家を出た時、鍵は無施錠のまま
18時20分 新木場の公園の茂みにおいて、河北の遺体が発見される
遺体は、一般利用者の目には届かない茂み深くにあった
遺体の第一発見者は清掃員
遺体のコートのポケットには、河北の部屋の鍵が入っていた
【12月27日】
施錠された河北の部屋(江戸川橋)の冷蔵庫でショートケーキが発見される
…………
「ところで、被害者の河北雪菜はどういう女性だったんですかね?」
「それは鰤谷の方が詳しいんじゃない? ワイドショーを見るのが趣味なんでしょ」
被害者の人となりについては、友人や家族の証言に現れる範囲では捜査記録に書かれている。とはいえ、犯人が不明で、被害者の交友関係を徹底的に洗う必要がある事案ならともかく、警察が東出を「犯人」として特定している本件においては、河北の人となりは、いわば「どうでもいい事情」であるため、そこまで厚く書かれているわけではない。
思いつくところとしては、河北の母親が、「娘は引っ込み思案でおとなしく、トラブルに巻き込まれたり、人様から恨みを買うようなタイプではありませんでした」と話していることと、父親も同趣旨のことを話している部分くらいだろうか。
他方、その「どうでもいい事情」をハイエナの如く徹底的に追い回すのがマスメディアである。河北の人物像について、捜査記録には書かれていないことがワイドショーでは平然と報じられていた。
「趣味というほどではないですが、よく見てはいますね」
「じゃあ、どうなの? 河北はどういう人間なの?」
「それが、よく分からないんですよ」
「分からない?」
「ええ。これまで報道されている情報を元に河北雪菜を紹介すると、22歳の女性。身長は平均より少し低め。大人しい性格であるが、明るく活発。地味だが派手。道徳的だが非道徳的。異性関係については、貞淑だが淫乱」
「何それ。メチャクチャじゃない」
河北の性格について、真逆の評価が混在している。
「まるで、『この熊は、シロクマであり、クロクマだ』と評するようなものね」
「なんというか、ソースによって違うみたいなんですね。ある人物は河北のことを貞淑であると言っていて、別のある人物は河北の異性関係は派手だと言っている河北は人によって使い分けていたんですかね?」
「つまり、白い部分と黒い部分を両方持っているパンダということかしら?」
「うーん……たしかパンダって、漢字で『熊猫』って書きますよね? 猫を被った熊、の方がイメージに近いかもしれません」
「要するに、河北は、本当は悪い女なのに、良い女を演じていたということ?」
「まあ、そんな感じですね」
たしかにありそうな話である。
人間誰しも二面性というものは持っているものである。ましてや、女子大学生なぞは自分が他者からどう見られているかということを強く気にするだろうから、意図的に自分自身を使い分けて当然だ。
私は、地味な見た目のイメージと、彼女の両親から得られた情報から、河北は硬派で警戒心の強い女性だと勝手に思い込んでいた。
しかし、もし、それが彼女の「イメージ戦略」によるもので、本物の彼女は異性に対して自由奔放なタイプだとしたら――
頭の中で、とあるフレーズが引っ掛かった。
そのフレーズは、「密室のショートケーキ」の謎を考える上で重要なものであるため、その言葉が表れている証言の部分には、黄色い付箋で印をつけてある。
「事件の1週間前、雪菜は、私に、『家の合鍵を渡せるような関係性の人はいない』と話してました」
私は、その部分をゆっくりと読み上げる。河北の友人である倉持の証言である。
これまでは、河北はお堅い女性、というイメージを持っていたから、たとえ恋人であっても、本当に信頼できる関係となるまでは簡単には自宅の合鍵は渡さない、という意味でこのフレーズを捉えていた。
しかし、もしも河北が真逆のタイプの人間で、異性関係にだらしなかったとすると――
「もしかして、東出は河北の恋人ではなかったということ?」
「……どういう意味ですか?」
「つまり、河北は、そもそも東出が恋人ではない、という認識だったから、合鍵を渡さなかった、ということよ」
「家の合鍵を渡せるほどの関係性の人はいない」というフレーズは、恋人であろうとも一定以上の信頼関係がない限りは鍵を渡せない、とも読めるが、そもそも恋人がいない、とも読むことができる。
「でも、イロハ検事、東出は、河北のことを恋人だって言ってるわけですよね?」
「ええ。そうね。東出は、河北のことを『恋人』として認識しているわ。肉体関係も含め、恋人らしいこともしてるんだとは思う。東出の友人も、河北の友人も、2人は恋人だったと話している。でも、河北が東出のことを『恋人』と認識しているかどうかは分からない。もしかすると、彼女にとっては、彼は、友達以上恋人未満の存在だったのかもしれない」
「つまり、恋人候補、ということですか」
「そういうこと。そして河北には、もしかすると、他にも恋人候補がいたかもしれない」
もし河北に東出の他に恋人候補がいたとしても、倉持の証言によれば、「家の合鍵を渡すほどの関係性の人はいない」のだから、その彼も合鍵を持っていたわけではないということだろう。
とすると、「もう1人の恋人候補」が見つかったところで、ただちに「密室のショートケーキ」の謎が解明されるわけではなさそうだ。とはいえ、「もう1人の恋人候補」というのは、クリスマスイブに起きた殺人事件には誂え向きである。
「イロハ検事、河北に、他にも恋人候補がいたとして、それをどうやって割り出すんですか? 遺体はカンモクですよ」
死んだ河北自身に訊くことができないのは当然だ。
「警察に頼んで、河北の友人に再度話を聞くのが一番でしょうね。刑事記録に表れている河北の友人は2名。事件当日に河北とランチをしている弓仲千紘。それから、合鍵について証言してくれている倉持繭ね」
日々忙しなく業務をこなす中で、思い立ったらすぐに行動するということは私の鉄則だった。
私はデスクの端に置いてある固定電話の受話器を取ると、本件の捜査を担当している江東警察署の刑事の直通番号を押した。
「はい。江東警察署刑事課の岩崎です」
快活な男性の声だ。別の事件でもタッグを組んだことがあるため、彼のことはよく知っているが、普段はどちらかというと陰気なタイプである。立場が上で検察庁からの電話に対して、無理やり愛想良い態度を取っているのだろう。
「検事の小野寺です」
「小野寺検事、お疲れ様です」
「新木場の殺人の件で補充捜査を頼みたいんだけど、いいかしら?」
「はい。もちろん。なんでしょうか」
「被害者の友人にもう一度事情聴取をして欲しいの。まず、事件当日に被害者とレストランで食事をしていた弓仲千紘を呼んで……」
「弓仲千紘ですね」
「……え?」
思わぬ指摘に、私は呆気に取られる。
「弓仲の下の名前ですが、『ちひろ』じゃなくて『かずひろ』って読むんですよ。私も警察署に呼ぶ前は女性かと思っていたのですが、実際に来たのは男性だったので驚きました。小野寺検事は供述調書しか見てないので、『ちひろ』という名前の女性だと勘違いしても仕方ないかもしれませんね」
6 不始末の後始末
その日は、取調べの予定もなく、比較的ゆったりとしたスケジュールだった。
万引きや酔っ払い同士の喧嘩といった細々とした案件を手元で処理しながらも、せめて時間があるときくらいはと思い、普段は聞き流している鰤谷の無駄話に耳を傾ける昼下がり。
鰤谷が最近参加した婚活パーティーで、自分よりも20歳も年上の女性に言い寄られて辟易したという話を身振り手振り交えて話している時に、彼のデスクの電話が鳴った。
検察庁の受付からの内線呼び出しだ。
「はい。事務官の鰤谷です。……え? わざわざ検察庁まで来たんですか? ……なるほど。小野寺検事と面会希望ですね。一応、小野寺検事に確認してみます」
鰤谷が電話を保留にしたのを確認して、私は尋ねる。
「来客かしら? 誰?」
「東出郷司です。覚えてますよね?」
「当然」
東出の案件は、つい昨日処理したばかりである。それに、あれだけ悩まされた事件のことを1日や2日で簡単に忘れるはずがない。
「まさか、私に菓子折りでも持ってきたわけ?」
「そうらしいです。……あ、お菓子については、当庁の規定上受け取れないんですけど」
「そんなこと知ってるわよ」
私は徐ろに立ち上がると、ビシッとスーツの襟を糺した。外していた白菊と金色の葉の検察官バッジも取り付ける。
「面会に応じるんですか?」
「もちろん。だって彼は『被害者』なのよ。私には彼に謝る義務があるわ」
勾留満期であった昨日、私は、東出を不起訴処分とし、即日釈放した。
「密室のショートケーキ」の謎が解明されることにより、彼の無実が明らかになったためである。
晴れて自由の身になった翌日、元被疑者がわざわざ検察庁にやってきて、担当検事に挨拶をしにくるなどというのは異例中の異例である。とはいえ、留置施設の警察官から突然身柄釈放を言い渡され、事情も分からないまま外に出されたことでチンプンカンプンになり、私に説明を求めに来る気持ちも十分理解できる。
東出は事件の真相が知りたいのである。
河北を殺した真犯人が誰なのかということを知りたいのである。
私は真犯人が誰なのか分かっている。その真犯人はすでに逮捕されており、明日、私が弁解録取をする予定だ。
私は探偵ではないため、事件の真相について東出に開示してあげる義務はない。まだ有罪が確定していない真犯人について色々と明かすことは、リスクでもある。
とはいえ、謂れもない罪で2週間あまり身柄拘束しておきながら、それを開示しないというのは、あまりにも失礼だ。不始末の後始末をしなければならない。
私は、東出を面会室に通した。
取調室とは違い、部屋は明るくて広く、圧迫感はない。椅子もフカフカのソファである。
東出から受ける印象は数日前とは全く違っていた。
別人かと見間違うほどである。それは、東出が、留置施設において着用を義務付けられているスウェット姿ではなく、いかにもイマドキといった細身で清潔感のある上下コーデだったからということもある。
しかし、それ以上に、表情が違っていた。まるで長年苦しめられた病気から全快したかのように清々しい表情をしている。
「小野寺検事、この度は大変ありがとうございました」
ソファに座るように案内したのだが、東出は立ったまま、私に深くお辞儀をする。
「いえいえ。むしろ冤罪で逮捕、勾留してしまい申し訳ありませんでした。検察の失態と言われても仕方ないと思います」
私は、東出以上に深く頭を下げた。
法制度上、無実であるにもかかわらず起訴され、裁判所で有罪となって刑務所に入れられた場合には、そのことが後に判明すれば、金銭補償の対象となる。しかし、起訴がされる前に釈放された場合には、それまでにどれだけ身柄拘束がされていても、金銭補償の対象にはならない。それはあくまでも被疑者、つまり、犯罪をしたと疑われる者に対する身体拘束であり、結果としてその者が無実であることも、通常ありえることだからである。
とはいえ、身体拘束をしていた被疑者が、事実無根の冤罪であることが発覚して釈放されるということは、私の経験上はじめてであるし、東京地検全体で見ても珍しいことだと思う。不起訴となる場合というのは、大抵が、犯罪自体は証拠上認められるが、それが軽微であるために起訴を見送るというものなのだ。
ゆえに、東出が置かれた環境はあまりにも不憫であるし、検察をはじめとした捜査機関に対し、強い不信感を抱かれても仕方ないように思う。
しかし、東出には、私を責める気は毛頭なさそうであり、頭を下げる私に対して、「やめてください。小野寺検事は僕の命の恩人です」とまで言ってくれた。
2人は、お互いがお互いに勧めるような形でぎこちなくソファに腰をかけた。
「小野寺検事には本当に感謝しています。小野寺検事が、ハメられていた僕を窮地から救ってくれたんです」
たしかに東出はハメられていた。
「真犯人は、あなたをハメて、河北さん殺しの犯人に仕立て上げ、自分の罪を逃れようとしていました。そのためにマフラーが利用されました」
凶器は河北の手作りのマフラーであり、東出にプレゼントされたものだった。このことが決定的な証拠となり、彼は逮捕されたのである。
「僕は未だによく分かっていなんです。僕は雪菜を殺していません。僕は雪菜を愛していましたし、その想いは未だに褪せていません。僕は愛する人を殺された『被害者』なんです」
「ええ。私もそう思っています」
「それなのに、凶器のマフラーは、僕の所有物で間違いないんです。僕はマフラーをずっと鍵付きのロッカーに入れていました。真犯人は一体どうやって僕のマフラーをロッカーから取り出したんですか? それがずっと分からなくて……」
真犯人は、どのようにしてマフラーを手に入れ、それを凶器に用いたのか。
東出は、その方法が分かっていない。ゆえに、彼はカンモクを選んだ。
東出自身、自分が犯人ではない理由を説明できなかったからである。
凶器のマフラーは東出の所有物であり、河北の手作りであったから、市販がされていないものだった。よって、真犯人が、どこかお店で同一のマフラーを購入したということはありえない。
そして、東出のマフラーは、河北が殺されたとされた時間には、公園のロッカーの中に、鍵をかけて入れられていた。その鍵は東出が肌身離さず持っていた。殺害時刻にロッカーからマフラーを取り出せるのは、東出だけなのである。
このような客観的事実がある以上、単に東出が「僕は殺していない」と主張したところ、単なる遠吠えにしかならない。犯人がどのようにしてマフラーを使ったのか、ということを合理的に説明できない限りは捜査機関からかけられた疑いを覆すことはできないのである。
カンモクの作戦をとったことが正しかったのかどうかは分からない。
しかし、東出がカンモクを選んだ気持ちはよく分かる。犯人と疑われ、かつ、自分でその疑いを飛ばすことができない状態においては、それでも捜査機関を信頼して全てを正直に話そうとは思えないだろう。
「凶器が手作りのマフラーだったこと。ゆえに捜査機関があなたを犯人と断定し、逮捕に踏み切った理由でした。そして、あなたの言うとおり、あなたがロッカーに入れていたマフラーを使用できるのは、あなたしかいないんです」
「すると、僕が犯人ということになってしまいますよね?」
「ええ。もしも犯人が使用したマフラーが、あなたのマフラーだったとすればね」
「え?」
「真犯人が凶器に使ったのは、 あなたのマフラー ではなかったんです」
東出が目を丸くする。
「そんなわけないですよね。だって、雪菜の首からは、僕のマフラーの繊維が検出されたんですよね?」
「正確に言うと、検出されたのは、あなたのマフラーの繊維と同一の繊維です」
「……どういう意味ですか?」
「実は、河北さんの手作りマフラーは2つ存在していたんです」
東出はあんぐりと口を開けたまま、固まってしまった。
これから私が披露する推理は、彼を救うためのものであると同時に、違う意味で彼を失望させるものなのである。
「たしかあなたが河北さんからマフラーをもらったのは、今年の11月頃でしたよね?」
「ええ。『だいぶ寒くなってきたから』と言われて、突然手渡されたんです」
「私も写真で見ましたが、なかなか凝ったデザインでしたね」
「そうですね。赤が主体なんですが、黄色で模様が施されていて。目立たないですが、他にも何色か使われていて、雪菜は器用なんだなと思いました」
「鑑識の方で調べたところ、使われている毛糸の種類は7種類もありました。そのうち、金色の毛糸はなかなか市販されておらず、スウェーデンのサイトからネットで注文されたものだと分かっています。ゆえに、繊維が一致するマフラーが偶然2つ存在しているなどということはありえないんです」
私は、「偶然」というフレーズを強調した。
「とはいえ、同じ毛糸を使いさえすれば、繊維が一致するマフラーは作れるわけです。実は、河北さんは、あなたの分だけでなく、同じ毛糸を使って、もう1人分のマフラーも編んでたんです」
「そんなはずありません!! 雪菜はそんな話は僕にしていません!! 『世界で1つだけの手作りマフラー』と僕に話していましたし!!」
「仏の悪口を言うのは趣味ではありませんが」と前置きし、私は、彼にとって耳の痛い話を続ける。
「東出さん、河北さんは、あなたが思っているような一途でピュアな女性ではなかったんです。河北さんには、あなた以外にも親密な男性がいました」
「……そ、そんなはずは……」
「信じられない、という気持ちは分かります。ただ、これが事実なんです」
もっと言うと、東出は、河北にとって「恋人」ですらなく、「恋人候補」だったのである。しかし、目の前の男の取り乱しようを見ると、一気にそのことまでを伝えるのは憚られた。
「河北さんは、あなたにマフラーをプレゼントすると同時に、全く同じ毛糸を使って作ったマフラーを、もう一人の親密な男性にもプレゼントしていました。凶器として使われたのは、後者のマフラーであり、その、もう一人の親密な男性こそが、河北さんを殺害した真犯人です」
東出の目には涙が浮かんでいる。自分だけのものだと思っていた河北を「横取り」された悔しさ、そして、その男に彼女の命まで奪われてしまった悔しさが入り混じっているのだろう。
心の整理はすぐにはできないだろう。とはいえ、東出はまだ若い。これから時間をかけて整理をしていけばいい。
「真犯人の名前は、弓仲千紘といいます。東出さんもご存知ですよね?」
「……ええ」
東出はそのまま黙り込んでしまい、それ以上は答えなかった。
無理に彼から情報を得なくても、すでに捜査機関の方で弓仲を巡る人間関係については調べてある。弓仲は、河北と東出と同じ大学に通っており、2人と同級生である。東出とは、語学のクラスなどで重なりがあり、顔見知り以上の関係にはあるとのことだ。
「河北さんは、あなたと弓仲さん、同時に2人と交際していました」
厳密に言えば、河北にとっては2人とも「恋人候補」に過ぎず、ともに合鍵を渡せるほどの間柄でもなかったのだが、そのことはここでは措いておく。
「事件があったのはクリスマスイブです。河北さんは当然、この日を大切な人と一緒に過ごそうと考えました。しかし、彼女の大切な人は2人います。そこで彼女はどうしたか。1日を2分割し、昼間の時間を弓仲さんと、夜の時間をあなたと一緒に過ごすことにしたんです」
「そんな……」
「もちろん、河北さんは、このことをあなたにも弓仲さんにも告げていませんでした。2股をかけてることがバレたらトラブルになることは確実ですからね。ともかく、河北さんは、事件のあった昼間に弓仲さんと約束をし、イタリアンでランチを楽しんだのです」
最初に捜査記録を読んだ時には、このランチにそのような危険な意味合いがあることには気付いていなかった。千紘を「ちひろ」と読んでしまっていたがゆえに、弓仲を女性だと勘違いしていたからである。このランチは、女友達同士の穏やかなものではなかった。
「その後、河北さんは、弓仲さんを自分の家に誘いました」
ここから先は、弓仲が供述調書では決して語らなかった「真実」である。
「河北さんの部屋に着いた2人は、これは想像に任せるしかないのですが、おそらくイチャイチャしていたのだと思います。クリスマスイブですからね」
歯を食いしばる東出を意に介さず、私は話を続ける。
「河北さんとしては、そこで済ませて、弓仲さんには帰ってもらうつもりでした。その後、あなたとの約束がありますからね。しかし、弓仲さんはそんなつもりではなかった。クリスマスイブは夜まで彼女と一緒にいるつもりだったんです。そこで『次の予定があるから、帰って欲しい』と告げた河北さんと弓仲さんは口論になりました。そして、勢い余り、弓仲さんは河北さんを殺害してしまったのです。それが、14時15分〜14時45分の間の出来事です」
人殺しはどのような理由があれども正当化されるものではないと思う。しかし、弓仲の気持ちも理解できないわけではない。「恋人」である河北に、聖夜を共に過ごすことを拒絶されたのだ。自分よりも大切な人がいるのか、自分は単なる遊びなのかと疑ったに違いない。一種のパニックに陥ったのだろう。
「弓仲さんが河北さんの殺害に使ったのは、その日、彼が首に巻いていたマフラーでした。河北さんからプレゼントされた手作りのね。それがたまたまその場にあったからでしょう。これは計画的ではなく、衝動的な犯行なのです。彼は、怒りに任せて彼女の首を絞めました。恐らくは苦しめるつもりであっても、殺すつもりまではなかったんだと思います」
もしここで弓仲の手元近くにあったものが、手作りマフラーでなく、麻紐であったら、今回の事件はここまで複雑にはならず、東出が誤認逮捕されることもなかったのである。東出から見れば、最悪の巡り合わせだった。
「弓仲さんは、河北さんを衝動的に殺してしまいました。河北さんの部屋で、彼女の遺体と2人きりになったんです。当然、その後どうするかなんて決めていませんでした。遺体をどのように処理すべきか分からず、弓仲さんは茫然としました。そのようにして1時間以上もの時間が無為に経過しました。その時、家のチャイムが鳴ったのです」
「僕が鳴らしたんですね」
「そうです。16時00分頃、あなたはケーキを持って、河北さんの家に訪れました。そして、チャイムを鳴らしました。この時、弓仲さんはある大変なことに気が付くんです」
「ある大変なこと?」
「玄関の鍵の閉め忘れです。河北さんの家に来た際に、鍵を閉め忘れていたのです。このままだと、まさに東出さんがそうしたように、チャイムを鳴らした訪問者が部屋の中まで入ってくる可能性があります。そうすると、自分が河北さんを殺害したことがバレてしまいます」
弓仲はかなり焦っただろう。鍵を閉め忘れたのは、家主である河北の責任が大きいかもしれない。とはいえ、「絶対に隠したい」殺害現場が無施錠であることにしばらく気付かなかったことは、あまりにも大きな過失である。
「弓仲さんとしては何とかしてあなたが部屋に入ってくることを防ぎたかったはずですが、今更鍵を閉めるわけにはいきません。そうすれば、ドアの前にいるあなたに音でバレてしまいます。玄関へと向かう足音、そして、ガチャリという鍵を閉める音でね」
「そして、実際に、僕がドアノブを捻った時、鍵は掛かっていませんでした」
「弓仲さんは鍵を掛けることを諦めて、別の手段で、河北さんの遺体と自分の存在を隠蔽することにしたからです」
「別の手段?」
「クローゼットの中に隠れたんですよ。河北さんの遺体と一緒にね」
洋服を入れるためのクローゼットは、女性の家であれば、それなりのスペースが確保されていることが多い。捜査記録には間取り図までは付いていなかったが、クローゼットの存在について記載されていたし、東出も「家に入った後、念のため、トイレやクローゼットのある部屋も含めて誰かいないか見て回った」と話しており、クローゼットのある部屋の存在を示唆していた。
弓仲は、咄嗟の判断で、遺体をクローゼットに運び入れ、同時に自分もそこに身を隠し、戸を閉めたのだ。
「東出さん、河北さんの家に入った後、さすがにクローゼットの戸を開けて中身までは確認してませんよね?」
「ええ。クローゼットのある部屋には行きましたが、戸までは開けていません。まさかその中に人がいただなんて……」
東出は頭を抱える。彼は河北は留守だと思っていたのだから、クローゼットの中身を見ないのは当たり前である。彼に落ち度があるわけではない。むしろ、ここでクローゼットを開けてしまっていれば、居直った弓仲に襲われることだって考えられた。
「東出さんは、弓仲さんの存在には気づきませんでした。他方、弓仲さんの方は、クローゼットの戸の隙間からあなたの姿を観察することによって、あることに気が付いたのです」
「あること?」
「それは、あなたが、弓仲さんが持っているマフラーと同じ毛糸で編まれたマフラーを身に着けていたことです。これによって、弓仲さんは、悟りました。河北さんがクリスマスイブの夜を過ごそうと思っていたのは東出さんであり、東出さんが浮気相手だったということを」
「僕は浮気相手じゃないです!! 雪菜の本命は僕ですから!!」
「東出さん、落ち着いてください。そのことをここで言い争っても仕方がありません。私が話しているのは、あくまでも弓仲さんの認識です。弓仲さんが、あなたのことを『浮気相手』だと考えた、ということに過ぎません」
「……取り乱しました。すみません」
東出はどこまでも純粋で素直な男である。河北に対する悪感情は、未だに彼の中では芽生えてないのである。現代においてはおそらく稀有であろうこのようなタイプの男を弄んでいた河北に対して、私は少し反感を覚えた。
「ともかく、あなたを『浮気相手』だと断定した弓仲は、あなたを懲らしめたいと考えました。さらに、あなたが凶器であるマフラーと同じマフラーを巻いていたことから、弓仲さんは、あるとんでもないアイデアを閃きました」
「……僕を犯人に仕立て上げることですか?」
「ええ。そのとおりです。弓仲さんは、あなたを『犯人』にすることによって、自分の罪を逃れると同時に、『浮気相手』であるあなたを懲らしめようとしたんです」
弓仲からすると、それはまさに一石二鳥の策略である。
「ところで、弓仲さんは、あなたが大学でどのサークルに所属していたのかを知っていましたよね?」
「はい。知っていました。弓仲とはそこまで仲良かったわけではないですが、お互いのサークルがどこかということくらいは話したことがあります」
「とすると、弓仲さんは、この日、あなたが新木場のグラウンドで野球の練習をしていたことを知りえたということですか?」
「そう思います。練習場所はいつもここですし、練習のある曜日も決まっていましたから……そういうことですか。弓仲は、新木場のグラウンドで僕がいたことを知っていたから、雪菜の遺体をそこに捨てることによって、僕を犯人に仕立て上げたんですね」
「そういうことです。おそらく遺体を車で運んだんでしょうね。そして、公園の茂みの深いところ、なるべく目立たない場所に遺棄しました」
罪をなすりつけたい人の近くに遺体を捨てる。これは極めて単純な方法であり、通常、そんな簡単な偽装工作は捜査機関には通用しない。
しかし、今回の事件においては、この「子ども騙し」が機能する条件が揃っていた。
第一は、凶器が手作りマフラーであったこと。捜査機関は、マフラーは唯一無二のものだと考えていたから、東出が犯人であるとの予断を持ってしまった。このマフラーに、河北が海外から取り寄せた珍しい毛糸が使われていたことも、弓仲に味方した。
第二は、東出がマフラーをロッカーに閉まっていたこと。これが仮にベンチに置きっぱなしなどであれば、東出以外の第三者がマフラーを窃取し、使用した可能性が出てくる。そうではなく、東出がマフラーをロッカーに閉まっており、その鍵を肌身離さず管理していたことから、東出以外による犯行の可能性が検討されることがなかった。
第三は、河北の死亡推定時刻が、具体的に特定されており、それが、東出がグラウンドにいた時間と一致したこと。
いずれも、弓仲の計算通り、というよりも、偶然の産物である。運が弓仲に味方したのだ。
裏を返せば、東出はとことんツイていなかった。もしも弓仲が使った凶器がマフラーでなければ、河北の家の鍵が閉まっていて弓仲にマフラーを見られていなければ、マフラーを鍵付きのロッカーに入れていなければ、マフラーの毛糸がありふれたものだったら、東出は冤罪によって誤認逮捕されるようなことはなかったものと思われる。
しかし、神は完全に東出を見放したわけではなかった。
項垂れている東出に、私は優しく微笑みかける。
「東出さん、あなたを救ったのは苺のショートケーキでした」
「いちごのショートケーキが僕を救った? 僕が雪菜のために買ったショートケーキですか?」
「ええ。そうです。そのショートケーキはただのショートケーキではありません。『幸運のショートケーキ』です」
「幸運のショートケーキ……」
「クローゼットに隠れていた弓仲さんは、あなたがケーキを持っていたことに気づいていませんでした。あなたが冷蔵庫にケーキを入れたことに気付けなかったんです。冷蔵庫にケーキが新たに現れたことに気付かないまま、河北が持っていた鍵を使って、家の鍵を閉めてしまった」
弓仲が、河北の遺体とともに家を出た際に鍵を閉めた理由については、弓仲の話を聞く前である現段階では、想像するしかない。ただ、おそらくは、殺害現場が河北の家であるということを捜査機関にバレないようにするためだと思う。被害者の家が無施錠の状態というのは、些か不自然である。捜査機関がこのことに目をつけ、そこから真の殺害現場を割り出されて仕舞えば、弓仲の計画は崩れることになる。ゆえに、弓仲は河北宅の鍵を閉めた。
そして、鍵を閉めたのが河北自身であると見せかけるために、キーを河北のコートのポケットに入れたのである。
しかし、このことが、結果として、弓仲にとっては命取りとなったのである。
「小野寺検事、冷蔵庫のケーキに気付かないままで、家の鍵を閉めて出ていったことが、弓仲にとってそんなに問題なんですか?」
「大問題です。そのことによって、『密室のショートケーキ』の謎が生じてしまったわけですから」
「密室のショートケーキ」の謎。
私が発見したこの謎は、最初は事件とは関係のないものに見えた。しかし、実際には、事件の真相と密接に結びついていたのである。
「『密室のショートケーキ』の謎というのは、前回会った時に小野寺検事が話していたものですよね?」
「そうです。密室である河北さんの家に突然ショートケーキが現れたという謎。今までの説明により、この謎は完全に解けています。実は、河北さんの家は密室でも何でもなかったんです。あなたがケーキを持ち込んだ段階で、鍵は開いていました。そして、キーも家の中にありました。河北さんの遺体とともに。その後、そのキーを使って、弓仲さんが家の鍵を閉めただけの話なんです」
鍵=河北の遺体が、彼女の死亡推定時刻である14時15分〜45分の段階ですでに新木場のグラウンド付近に遺棄されていたとの前提があったため、ケーキが作られた15時30分以降に鍵の開け閉めがありえないとの思い込みが生まれた。それこそが「密室のショートケーキ」の謎の正体だったのである。
鍵=河北の遺体が、14時15分〜45分の段階で実は河北の部屋にあったのだとすれば、河北の部屋は密室でもなんでもない。その鍵を使い、15時30分以降にドアを閉めることができるからである。
「『密室のショートケーキ』の謎と向かい合うことによって、殺害現場が河北さんの家であった、という真相が発覚したわけです。あなたがケーキを買い、河北さんの家の冷蔵庫に入れておいたからこそ、あなたの冤罪が発覚したんですよ。まさに『幸運のショートケーキ』じゃないですか」
東出は、大きく首を振った。
「いいえ。ショートケーキのおかげじゃないです。小野寺検事のおかげです。小野寺検事が『密室のショートケーキ』の謎に気付き、その謎を解いてくれたがゆえに、僕は刑務所に入らずに済みました」
東出は、満面の笑みを見せる。
「小野寺検事、あなたこそが僕にとっての『幸運の女神』なんです」
(了)
真の時系列表(おまけ)
【12月24日】
12時25分 池袋にて、弓仲千紘とランチをする河北が撮影される
弓仲千紘は河北の「恋人候補」
ランチの後、河北と弓仲は江戸川橋の河北宅に移動する
13時00分 新木場のグラウンドにて、東出が野球の練習を開始
東出も、河北の「恋人候補」
マフラー(東出所有)は鍵付きのロッカーにしまった状態
途中、「飲み物を買いに行く」と言って中座
14時15分 河北が弓仲に帰るよう伝え、口論に
〜14時45分 マフラー(弓仲所有)で弓仲が河北の首を絞め、殺害
遺体の処理に困った弓仲はここから1時間以上茫然とする
15時00分 東出が野球の練習を終える
15時30分 江戸川橋のケーキ屋でショートケーキが製造される
15時50分 江戸川橋のケーキ屋で、東出がショートケーキを購入する
16時00分 江戸川橋の河北宅に東出が訪問する
河北と弓仲の過失により、鍵は開けっ放し
弓仲は、河北の遺体とともにクローゼットに隠れる
冷蔵庫にケーキを入れ、東出は家を出る
弓仲が、東出のマフラーを確認する
東出が家を出た時、鍵は無施錠のまま
16時00分〜 弓仲が河北の遺体を持って新木場へ移動(おそらく車移動)
18時20分 家を出る際、河北が持っていた鍵で、施錠する
鍵は、河北のコートの右ポケットに入れる
公園の茂みに、河北の遺体を遺棄
18時20分 新木場の公園の茂みにおいて、河北の遺体が発見される
遺体は、一般利用者の目には届かない茂み深くにあった
遺体の第一発見者は清掃員
遺体のコートのポケットには、河北の部屋の鍵が入っていた
【12月27日】
施錠された河北の部屋(江戸川橋)の冷蔵庫でショートケーキが発見される