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ミステリにおける〝推理〟ってなんですのん?

目次

はじめに

提示された謎に対して、論理的かつフェアな解答を行う作品群の総称ーーこれが本サイトにおける推理小説・ミステリ作品の定義です。

目的が謎解きであるかぎりミステリの要素として……興味深い謎、それを解き明かす方法、責任をもって謎を解き明かしてくれる存在……この3点が挙げられます。
そのうえでおもしろさを保証する要素のひとつには、解き明かす方法における公平性の保証、つまり論理的な解答は欠かせないもの。
創作である以上、事柄の繋がりは導出可能であることが前提にあるのでしょう。
その繋がりを見えるようにするのが、探偵役による推理。

さて。
ということで、今回は〝推理〟についてまとめていきます!



※※※
〝推理〟があまりにも学問と近しいため、あくまでも概要整理です。
過去に参照したはずの論文や書籍は、改めて探してます。だって、内容を覚えていても題名や著者を覚えていないんだもの。自分が何に興味あるか探しているころだったので乱読すぎて……。
おもに、心理学関連だったり論理学関連だったり。気になりましたら探してください。わたしが参考文献を更新するより単語で検索かけたほうが早いかもしれません☆現代社会の恩恵を受けてくださいな。

推理 推論 推論規則 論理 知能 CHC理論 ルリア理論……ざっとこのあたりですかね。

畢竟、素人ですから悪しからず。
※※※




推理とは何ぞや?

言葉の意味

・論理学における概念のひとつ
推論の正しさをもとに、思考過程の真理性や法則の研究をする学問
かすかに数学で関わった記憶がある(実際はあらゆる分野で用いられる)
 三大法則→矛盾律、排中律、同一律

・単数あるいは複数の判断から新しい判断を導き出すこと
前提から結論を導く思考作用
ある事実をもとにして未知の事象を推しはかること

・論理学的に正しい事象が現実で正しい事象とは言い切れないと留意する必要がある
……後期クイーン問題/閉じた論理体系/ゲーデルの不完全性定理 とか?
現実では証明可能性の存在が保証されているとは限らない

・類語
推察→推しはかること
推測→ある事実から推しはかること
推量→広く推しはかること
推定→ある資料をもとに推しはかること
推究→物事の道筋を深く推しはかって考え極めること
推論→未詳の事象を推しはかって論ずること


おもな種類

※鳩ノ巣原理を用いるような「ここまでは断言できる!」の推論ではなく「前提をもとにしてある結論を導ける推論」の種類です。



・演繹法(シュナゴーゲー(アナゴ―ゲー))
一般的な前提を個別の事例や結論に当てはめる推論方法
なお、「数学的帰納法」は間接的な演繹法、名付け親は名乗り出てほしい
前提が正しいうえで妥当に用いれば真の結論を導ける(真理保存性が満たされる)推論ではあるものの、叙述トリックが用いられた作品だったり羅生門効果の術中にハマったりするなど、推理小説において完全に信頼できるとは言い切れない

☆三段論法
定言、選言、仮言の種類がある
ex)
A=BなおかつB=Cが成り立つならば、A=Bである。
リンゴは果物であり、果物は樹木から収穫する。したがって、リンゴは樹木から収穫する。

☆背理法
帰謬(誤りに帰着させる)を用いる
仮説Aが成り立たないと断定したときに矛盾が導かれることから、仮説Aは成り立つと導く
ex)
夜には日光が地上にまったく届かない。しかし、月は恒星ではないにもかかわらず明るい日があるのは太陽光を反射しているからだ。太陽光は、つまり日光である。したがって、月の満ち欠けや厚い雲に影響は受けるが、夜でも日光が地上に降り注ぐ日は存在する。

☆対偶法
ある仮説(αならばβ)の対偶(βでなければαではない)を証明することで、当初の仮説を証明する
仮説Aが成り立つことから、Aの逆かつ裏である仮説Bが成り立つことを導く
ex)
ミステリならばおもしろい。したがって、おもしろくなければミステリではない。

☆類比推理法(アナロジー)
異なる事象に対して共通項を見出す作業を行い、ある複数の事象について本質的な類似性を根拠にしてほかの事象が持つ性質の類似性を導く推論方法
論理的誤謬(結論の真偽に因らず論理が飛躍すること/論理の飛躍=前提の不足=詭弁)の排除が困難であるため推論としてはやや脆弱だが、科学分野にかぎらず日常でも自然と用いられる。
ex)
科学理論の形成(ファラデーによる電磁場に対する幾何学の類比→マクスウェル方程式の提唱)
比喩表現(雪のような人→雪=白い・冷たい・解ける→色白、純粋、冷淡、鋭利、儚さ、姿を変える……etc.みたいな、そういう雰囲気の人)
この作家の著作にはハズレが無い。ならば最新作も面白いに違いない。

☆転導法
可逆性のない特殊な事象から特殊な事象を結論する推論方法
ある意味では知覚的あるいは直感的だと言い換えられるが、論理的誤謬や真偽に関しては扱われる前提や条件次第。
(周囲の観察から得られる経験的な先入観によって構成される知識体系(素朴理論)を踏まえて読者が転導推理をするように仕向けることで叙述トリックに発展するかもしれない(いまのところ、そう認識してます。違うかも))
ex)
AならばBである。ならば、AであるからBである。したがって、AではないならばBではない。
いちごオレは至高である。いちごオレだからこそ至高だ。だから、いちごオレ以外は低俗である。(いちごオレが大好きなだけ)





・帰納法(因果推論/エパゴーゲー)
個別の事例から一般的な結論を検証する推論方法(論理的実証主義)
明確に定義できない個別の事象は前提に用いることができない(グルーのパラドックス)
可能性の高さ、蓋然性の度合いを導く推論(=確証性の原理)であるため、事象を列挙することでは正当性は満たせない(自然の一斉性原理の正当化は循環論法に陥る)
ex)
猫のA,B,Cはネズミを追いかけたことがある。ならば、すべての猫はネズミを追いかけたことがあるだろう。
太陽はよく東の空から昇る。ならば、いつも太陽は東の空から昇るだろう。





・仮説法(逆行推論/アパゴーゲー/レトロダクション/アブダクション※)
結論となる事象に対して法則や規則を適用することで前提を導く推論方法
論理学では後件肯定として扱われるので論理的誤謬とされるが、科学的論証のように確認できる現象について多くの前提を論拠に置くこともある……というよりも、そもそも科学研究の考えかたがコレ。
発想の次元が重視されており、KJ法やブレインストーミングなどの問題分析手法の根底にある考え。ヒューリスティック(アドホックな仮定/発見的仮定/経験則)であり、推理小説ではシャーロックホームズをはじめとした探偵役が好む手法のひとつ。
(ここから後期クイーン的問題に発展してる? それとも無関係?? わからん。)※アブダクション→宇宙人による誘拐
ex)
桜の花びらは散るものだが、この桜の花は茎がついた状態で地面に落ちている。春になると動植物が活発になり、桜の木の周囲にはよく小鳥が飛んでいる。この茎は細く柔らかいから弱い力でも十分切り取れる。したがって、この桜の花は小鳥がくちばしで切り取ってしまったのだろう。




探偵役の推理は特殊

謎解きはミステリがミステリであるための最低限の要素であり、謎解きの過程が探偵役による推理にあたります。
つまり推理は、ミステリにおける謎解きを成立させ得る要件であり、ミステリが「人工の美学」と謳われる由縁です。また、この2つを過不足なく満たした推理を、一般的に「美しい推理」と表現するのでしょう。(評論家ではないので調査中です。)


・前提から結論へ至る誰もが納得する道筋があること

・前提から誰もが納得する論法によって結論を導くことができること


これは証明論において妥当な推論だと判断するための基準です。
他方、徹底した客観が求められる推論とは異なり、推理小説・ミステリ作品における推理には少なからず主観要素が含まれます。探偵役が行う推理の特殊性ゆえでしょう。


知能の高さゆえに推理を用いることで難解な謎を解き明かせる探偵役に成り得るのかウンヌンと論じるには、「知能」が生物学と心理学のそれぞれの分野において定義が異なるため、わたしには荷が重すぎます。ので、ここでは「推理小説・ミステリにおける推理ができる」とはどういうことか、現在の知識範囲&読書遍歴でまとめました。



推理小説において、用いられる推論方法は探偵役ごとに多種多様です。しかし、どのように当該結論を得るに至ったのか――これは、仮説法だと断定できると思っています。
上記にまとめた推論方法において、演繹法と帰納法は、A→B→Cと結論を導きます。
しかし仮説法は、Cが最初に提示されます。C→B→Aと前提にたどりつく必要があります。ほかふたつの推論方法とはそもそもはじまりが異なっています。

事件発生以降の段階から(あるいは、事件が起きそうな状況に遭遇した段階から)でなければ探偵役は思考を働かせることは不可能です。結論がすでに明示されている状態ならば未詳である前提を考える余地しか残されていません。論理学や証明論とは根幹から成り立ちがことなっているため、推理小説/ミステリ作品の推理に関して、既存の学問法則をそのまま適用するには無理があるということです。

最終的な結論に関する説明を他者にする際に探偵役が用いるのが演繹法あるいは帰納法なのは、このふたつが論理学的な正しさから読者が「その推理は正しい」と受け入れやすいからでしょう。仮説法的な視点では、探偵役と同内容を目にしていたはずの読者には、はじめに提示された不可能性が希釈しきれません。

ただ、ミステリに対する期待や満足は仮説法がもたらし得るものです。答えがわからない興味深い謎があるからこそ、その先を知ろうと自分なりに推理したり探偵役によって真相が明かされるのを待ち望んだりして楽しんでいるわけですから。あらゆる読者がいますから思考力だけでは勝負しきれない要素を発想力で補強する必要があります。(最近よく見かけるようになった特殊設定系統は、探偵役と周囲との乖離を大きくし過ぎないための工夫のひとつなのでしょうか??)

納得できる答えが求められるとしても容易にたどりつける答えが用意されていては興醒め待ったなし。だからといって、演繹法あるいは帰納法で説明しきれないほど論理の飛躍があると「いや、無理だろ……」って。「お、バカミスですか?」って。「何なん?」って。ミステリに対する期待が裏切られるとき、満足感が失われるとき、このあたりの書きかたが影響しているような気がします。あるいは、もともとミステリじゃあなかったと気づいてしまったときですね。


探偵役ごとにどのような解説をするか異なりますがミステリであるならば、共通して、推理によって謎を解き明かさんと試みます。しかしながら、他者への説明に相違があろうと、その結論に至るまでの思考/推論方法は共通して仮説法を用いているのではないか――現状のわたしの結論です!




おわり

ポイントは3つ!

  • 推理は論理学の概念。演繹法、帰納法、仮説法に大別できる。
  • 推論方法における優劣はないが、適する内容は異なる。
  • 推理は、ミステリにおいて以下の感覚があるため、特殊な用いられかたをする。
  • 提示された謎についてその答えを自力では導出できないが正しさは納得できる
     →答えに至るまでの推論に違和感を覚えない&探偵役の思考を垣間見る
     →ミステリの満足感、探偵役の魅力を支えている

さて。
文献収集の甘さや純粋な知識不足は自覚していますから推理小説/ミステリ作品の推理に関する知識体系にたどりついていないかもしれません。しかし、ここでは、既存の知識や概念をそのまま推理小説/ミステリ作品へ適用することは難しいと結論します。

既存の知識が適用できないのなら新規の知識体系が欲しいですね!

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