♧4 復讐
白詰草 よつば。
幸運のクローバーが擬人化したVtuber。
私のかけがえのない、唯一の姉。
Vtuberとは、2Dや3Dのデジタルアバター(キャラクター)を使用して、Youtubeなどで動画配信・投稿を行う配信者のこと。
生身の人間がモーションキャプチャ技術を用いて、リアルタイムでキャラクターを動かし、ゲーム実況や歌、雑談などを行う。
ぱっと見アニメのキャラクターが動いて喋っているようにしか見えないけれど、その実、その中身は人間味溢れる、魅力的な配信者の一人。
私にとって、目標であり、憧れの存在であり、推しであり、大切な、本当に大切な姉。他のどこにも居ない、かけがえのない存在。
そんな彼女は今現在、Vtuber活動を無期限休止し、表の舞台から姿を消してしまった。
何故か? 彼女は悪質なリスナーによるストーカー行為に悩まされていた。そんなとき、生配信中にそのリスナーが部屋に侵入して暴行傷害の被害に遭った。
言葉にするのもおぞましい卑劣な行為によって、私の姉は二度と笑顔を見せてはくれなくなってしまった。
私の大切な人の四つ葉の葉は、一つ残らずむしられてしまったのだ。
──許せない。
私の姉を傷つけた代償を償ってもらわなければならない。
犯罪者の醜い命を断つ。私が、姉の代わりに鉄槌を下す。
情報は既に私の手の中にある。
警察は当てにならない。あれから一年近く経った今でさえ、何の音沙汰も無い。仮に捕まっても、1つきりの傷害事件、数年もすれば刑務所から出てしまうだろう。獣が野に放たれ、再び誰かの命を脅かすかもしれないし、姉に二度目の凶行をしかねない。
どんな手を使っても、必ず私は奴を白日の下に晒してみせる。
必ず息の根を止める。私の手で、必ず。
どんな手を使っても。
私は得た情報を元に、行動に移すことにした。
♣1
【サイレントヒルf実況】#1 完全初見! 和ホラーにちゃるの存在を知らしめる!【ヴァーチャルヴィジョン/不在²婆 ちゃる】
配信日……2026.1.11 21:00:00~
いないいない~、いないいない~、いないいない~……
ばぁ!!!!!
はーい! こんばんばぁ~!
ヴァーチャルヴィジョン所属、不在系Vtuberの不在²婆 ちゃるでーっす!
あーー! あーー! 声大丈夫? 聞こえてる?
BGMは? ははっ、もう今にも何か出てきそうなBGMだよね。私にぴったりじゃない?
いないいない~、ばぁ!! ふふふ♪
サイレントヒルシリーズみんなやったことある?
私はサイレントヒル2好きだったなー!
今回はジャパニーズテイストということで、和のホラーですよ。めっっっっちゃ楽しみー!
え? 音楽ちょい下げた方が良い? 私の声が聞こえないか、おけおけ。はーい、聞こえる? 効果音はとりまこのままでいこ。
じゃー、始めて行きますん。
ネタバレ、指示コメ、臭わせ、アドバイス禁止ね。私が困って助けを求めてたときだけヒントよろしく。ふふ、私に都合が良い。
でもね、私がおろおろしてるとこ、見たいでしょ? ふふ。
やっぱりこういうゲームは夜にやらないとね!
……あ、お人形さん! かわよ!
あ、ハブられてる。やなやつ!
え、お姉ちゃん居るんだ! え、綺麗なたたずまい。
あ、昔の話か。
いいなー、私もお姉ちゃんに会いたい。
顔が映ってないの怖い。大丈夫? ほんとに人間?
いやーー、手まり歌みたいなの始まった! 怖い! 音楽で怖がらせにきてる! サイレントヒルf! fって何?
古い建物ー、なんか、田舎! って感じ。おばあちゃん家こんな感じだったなー。いやでも実写よりも実写って感じ。すごいグラフィックだよね。これ、どのくらい昔の話? 現代じゃないよね。
うわ。怖。嫌な父さん、お母さんもなんかその言い方やめてよね。
お姉ちゃん! 助けてよー! でもあの写真、お姉ちゃん嫁いだのかなー。もう居ないのか。寂しい。寂しいよ。最悪この家!
みんなお姉ちゃんっている? 私にはいるよ、みんなも知ってるよね。会いたいよー。本当に、会いたい。そばにいたい。
広っ! 友達の家どこー?
拝んでおこう? んー? 「何で休む」? 漢字読めないー。「示」って字の右側に歌詞の詞の右側にあるやつ。あー、「祠」ってこう書くんだ。
あ、セーブはここね。祠、大事。
コメントありがと。
♧3 信頼
私の名前は烏婆 鈴音。
姉はVtuberをしていた。
バーチャルユーチューバー、白詰草 よつば。
Vtuberタレントを多数契約している大手Vtuber事務所『にじライブ』の13期生。当時デビュー3周年というタイミングだった。
姉は配信中にストーカーのリスナーに襲われ、暴行を受けた。精神を壊し、誰とも話をしてくれなくなってしまった。部屋に閉じこもり、Vtuberを始める前の引きこもり生活に戻ってしまった。
姉の気持ちを推し量ることは妹である私であってもできやしない。姉の心の傷は、今すぐに治せるものじゃない。でも、時間が経てば自然に治るような単純なものでもなかった。
せめて、生きていてくれてよかった。本当に、本当に良かった。
それでも、たまに声をかけていないと、いつか何かのタイミングで自殺してしまいかねない危うさがある。なんとか姉をこの世界につなぎ止めておきたい。
だから私は姉に声を毎日掛けに行っている。返事はないけれど、物音はする。大丈夫。今日も生きている。
そんな私は、どす黒い感情に支配される気配を感じていた。
姉をめちゃくちゃにした犯罪者を許せない。
どんな手を使ってでも、奴を白日の下に晒してやりたい、と。
そこで以前、とある事件でお世話になった減井探偵事務所を私は訊ねた。
決して人がすれ違うことは出来ない程狭い幅の、一段一段がとても高い窮屈な階段を上がって2階、磨りガラスのドアを開ける。
「なんだ、お前か」
ソファにはよく知る顔がふんぞりかえっている。
「減井《めりい》さんは?」
「別件で出かけている。依頼か?」
「そうだけど」
ソファを所長でも無いのに陣取っているのは餐太という、この探偵事務所の自称ナンバーツー。といっても、この探偵事務所は二人で切り盛りしているので最下位とも言う。
「姉ちゃんをあんな風にした変質者の住所が知りたい」
「知ってどうするんだ?」
「通報する。まだ捕まってないんだよ?」
「警察に任せろよ、とは言うものの、事件からもうすぐ1年になるしな。あれから何の音沙汰も無い。警察に任せても犯人は捕まらないだろうな。……よし、オレがやる」
「期待しないで待ってる」
「ふん、そう言うなら、オレよりももっと適役がいるだろ。アイツに頼めばいいんじゃないか?」
「爺ちゃんのこと?」
爺ちゃんとは私の祖父のことじゃなくて、幼なじみの爺川 若久のこと。彼は私と同じ高校に通っていたが、途中不登校になり、今は引きこもり生活を満喫している。
爺ちゃんは先日、私の高校で起きた密室殺人事件を解決したことがあった。そこから餐太は彼を勝手にライバル視している。
私も爺ちゃんに頼みたいところなんだけど。
「Vtuberの配信見逃したくないからって言って、電話に出てくれないのよ」
「Vtuber? 白詰草 よつばじゃないだろうな」
「ちがう。いないいないばあって言ってた」
「知らんな。Vtuberってやつは、変な名前が多いよな」
「姉ちゃんの名前は可愛かったよ」
「そうだな……。よし、ちょっと出かけてくる」
「いってらっしゃい」
「おっと、これ。ここに電話しろ」
餐太が投げて寄越したのは、白い名刺だった。
餐太の名前と事務所の電話番号、住所が書いてある。
「名刺作ってもらったんだ、格好良いだろ」
「餐太の連絡先知ってるんだから要らないじゃん」
私はゴミ箱の方にフリスビーみたく投げて捨てた。
「おら、ここは誰もいなくなっちまうんだ。カギ閉めるから出てった出てった」
のんびりソファで待っていようと思ったのに、私も一緒に外に出されてしまった。
さ、私にできることはやったし、家に戻ろうっと。
♣2
【雑談】寒かったり暑かったり【ヴァーチャルヴィジョン/不在²婆 ちゃる】
配信日……2026.1.25 13:00:00~
いないいない~、いないいない~、いないいない~……
ばぁ!!!!!
はーい! こんにちばぁ~
ヴァーチャルヴィジョン所属、不在系Vtuberの不在²婆 ちゃるでーっす!
1月25日、お昼の雑談配信はじまりまーす!
もう、毎日毎日寒いよね~。
こないだ雪も降ったし? でも来週最高気温17℃だって!
ほら、大河小路市の天気予ほ……、あっ……いやいや、私は別に大河小路市在住じゃないよ! ほんとだって。つい口走っちゃったわけじゃなくて。
そう言うみんなは? まさか大河小路市住みの人はいないよね~?
あー、まぁ、いいか。ここだけの話、毎年、首藤夜桜庭園に花見の季節に見に行っているんだよね。
大河小路市にあるんだよ。さっきマネさんと桜の話してて、天気予報見たら17℃なんて書いてあったからついその話しちゃった。
うん。そう。桜が咲くのって、気温が関係してるらしいじゃん?
首藤夜桜庭園ってすごいよ! 夜桜庭園っていうくらいだから、夜に見に行くとライトアップされててお酒が美味し……あ、私年齢非公表だから。永遠の17歳だから。ふふっ。
そうそう。あそこの夜桜舞光酒に舞う金粉が綺麗で……、って。違うからね! 私は未成年だから! 永遠の17歳だから! 1周年でも歳は取りません!(笑)
さーて、ついに来月2月の22日は、私の1周年記念配信だよ。ぜーったい見に来てね。びっくりさせてあげるから。
それじゃあね! 今日もありがとう!
いないいな~い、いないいな~い、いないいな~い、ばいば~い!!
♧2 調和
「よっ。来たな」
減井探偵事務所に呼ばれたので、あの急な階段を登ってドアを開く。
相変わらず、減井さんは不在だった。餐太が手を振ってソファから挨拶してきた。
「あれから一週間しか経ってない。警察より仕事できるんじゃないの?」
「警察は探偵じゃないし、慈善事業でも無い。何か有益な情報を得ていたとしても、被害者家族に連絡を取ったり、情報共有したりしないんだよ。その点、探偵は被害者の味方だからな」
彼はソファの前のローテーブルに紙の資料とノーパソを並べた。
「白詰草よつば、もとい本名、烏婆 凍央。事件当時、大河小路市のマンションに住み、配信活動をしていた。警察は事件当時、マンションの防犯カメラを押収していた。そこから怪しい人物を特定し、事情徴収を行ったが、事件とは無関係だった。以上」
「……え?」
「警察の捜査の進捗はここまでだ」
「そんなこと、ネットニュースでも同じこと言っていたじゃない!」
「犯人を特定するような情報が無かったんだろう。情報が無い以上、オレにもこれ以上のことは調べられない」
「役立たず!! 餐太に期待した私がバカだった!!」
「鈴音、何をする気だ?」
「どんな手を使っても、姉ちゃんを傷つけた変態リスナーを見つけるって決めたんだから!」
「探偵は私情で動いてはいけない! 感情を制御して、理性で犯罪者を制圧するんだ!」
「私は探偵じゃないもん!!」
「すず……!!」
餐太の声を遮るように、事務所のドアを閉めて外に出た。
餐太の言葉を思い返す。
『探偵は私情で動いてはいけない』。餐太の口癖だった。
警察は公権力の行使によって、犯罪行為を許されている。
たとえば『逮捕』は刑事訴訟法に基づく公権力の行使であり、本来なら身体の自由を拘束する重大な行為、通常逮捕には裁判官の発布する令状が必要だけれど、警察は、法律に則ることによって、犯罪行為に近しい、自由を縛る行為を実行に移すことが出来る。公権力を持つ。
ただし、探偵はそうはいかない。現行犯逮捕を除いて、探偵には公権力は行使できない。どんなに法律に則っていても、調査程度にしか適用できない。尾行だって、張り込みだって、警察に詰め寄られれば手を引かざるを得ない。
探偵は探偵の領分の域を出てはいけない。そこから先は警察の領分で、公権力を持たない探偵の行き過ぎた調査は、犯罪者の領分と変わらないのだと。
餐太が偉そうに、口が酸っぱくなる程言っていることだった。
「そんなもの、屁理屈だよ。犯罪者を捕まえるためなら、何をしたってかまわないんだから」
向こうが法律を守っていないのに、どうして私たちが手出しできないんだ。こうしている間にも、他の誰かが被害に遭っているかもしれないのに。
私は探偵事務所に頼むことを諦めて、最後の頼みの綱である、幼なじみに直談判しに行くことにした。
♣3
【新衣装お披露目】1周年記念! 存在感がマシマシな婆【ヴァーチャルヴィジョン/不在²婆 ちゃる】
配信日……2026.2.22 21:00:00~
いないいない~、いないいない~、いないいない~……
ばぁ!!!!!
はーい、みんなが私のことで騒がしくなるまで5分待ってました!
ちゃんと時間には間に合ってたんだから。動いてなかった? もー、やめてよ。遅刻じゃないもん! 今日はおめでたい日なんだからもうちょい盛り上げてよね!
はーい! 今日は不在系Vtuber、不在²婆 ちゃる、デビュー1周年おめでとう会でーす!!
ありがとー!!!
ちょうど1年前、園ママからこの身体をもらって、私は生まれました! 半年前にクロスドミナンスパパからこうして動きをもらえて、私は幸せでした。
1周年記念で新しく園ママに描いてもらったのはキョンシー衣装でーす!! どう? かわいいでしょ? お札とか帽子とかオフショルとかかわいーでしょ? ほら、こうやって動けるの、パパにも手伝ってもらったんだ~。
キョンシーって、今の私にぴったりの衣装なんだよね!
これでチャイナドレスを着たお姉ちゃんとコラボできるって……、思ってたんだけど、ううん、泣いてないよ。大丈夫。うん。
え? クロスドミナンスパパ? そう、私たちVtuberに2Dや3Dのモデリングを作ってくれるすごい人!
うん、そう、そういう意味みたい。私は左利きだけどね。
みんなは左利き? クロスドミナンス?
どっちでもいいけどねー!
私のメンバー登録をしてちょうど1周年のリスナーさんもありがとう! 一緒にお祝いさせてね!!
それじゃあ、もう一つ、特大スペシャルプレゼント!
聞いてください!
不在²婆 ちゃるの新曲【魂魄 to コンタクト】!!!
♧1 困難に打ち勝つ
先贄区立賽河原高等学校。
私が通っている全校五百人ほどの高校。
昨年、私が入学した年に起きた殺人事件。それを秘密裏に解決に導いた高校生がいた。彼はそれを機に不登校となり、引きこもってはいるけれど、今も秘密裏に警察に協力して謎を解いている。
餐太なんかよりも立派に探偵をしている高校生探偵。それが爺川 若久という男の子。実はお姉ちゃんの事件もあれからずっと手伝ってもらっていた。
連絡しても返事が来なかったから玄関先まで来ちゃった。
ピンポーン。
「……何しに来た」
仏頂面で呟いている様が思い浮かぶ。インターホンのカメラに写るように顔を覗かせて声をかける。
「姉ちゃんを傷つけた人を見つけて、さっさと捕まえて!」
「今配信見てるとこなんだよなぁ。……いいから入ってこい。前に説明した、アレ、持ってきたんだろうな」
「うん、餐太が調べてたノーパソのデータ、持ってきた」
「よし」
カチャリ。
玄関のドアのロックが開く小さな音が聞こえた。
私は玄関を開けて、家の中に入った。
姉ちゃんとは違い、爺ちゃんの家の扉はちゃんと開く。引きこもっていても、閉じこもってはいないのが爺ちゃんだ。
2階の奥の部屋。ドアにカギは掛かっていなかった。
「爺ちゃん?」
『これをやり遂げたら、必ず私はここへ戻ってくる』
爺ちゃんが見ている画面からは、可愛い女の子の声が聞こえた。
「しっ。静かにしてろ」
爺ちゃんは次々と流れるコメントを端から睨み付けていた。
「それと、俺のことを爺ちゃんって呼ぶな。俺の名前は爺川 若久。お前も婆ちゃんって呼ばれたいのか? 烏婆 鈴音」
「それは嫌」
爺ちゃんはため息をついて、配信の方に身体を向き直る。
「そのコメントの横にある、色々な色の四角は何の意味があるの?」
「これはメンバー登録してからどのくらいの期間が経っているかを表すメンバーシップバッジという。不在²婆ちゃるのメンバーシップバッジは、新規~1ヶ月未満が水色、1ヶ月~2ヶ月未満が黄緑色、2ヶ月~6ヶ月未満が黄色、6ヶ月~1年未満が赤、1年以上が紫色を示している。@マークの横がリスナーの名前だ」
「この名前が緑だったり黒だったりするのは?」
「メンバー登録しているアカウントは緑色になっている。メンバー登録していないアカウントは黒い名前だ。登録していないから、メンバーシップバッジも無いんだ」
「ふぅん」
爺ちゃんは誰にも見られないからか、適当な服を着ていた。可愛いクマのキャラクターが正面に描かれたスパンコールの眩しいトレーナー、履いているズボンはサイズが合っていないようでぶかぶかとしていた。トレーナーの下には学校指定のワイシャツがしわしわになっていた。
髪の毛もボサボサで、整えれば多少は見ていられる顔をしているのにもったいないなぁと思う。髪の毛は自分で切って、諦めて放置していると聞いたことがあった。
外に出ないのだから、気にならないのだろう。安楽椅子探偵に見た目なんて意味がないんだ。今はネットの普及もあって、その存在感はどこにでも届く。
『今から会いに行くね……』
「…………、配信終わり、か──。ん。いいよ」
爺ちゃんがこちらを向いた。
「はい」
手のひらをこちらに向けたので、握手した。
女の子みたいな小さめで綺麗な手だった。
「何をしてるんだ。配信のデータを渡せと言っているんだ」
「あぁ、そういうこと」
爺ちゃんに言われていたデータは、姉ちゃんが被害に遭った時の生配信の動画データだった。
今はその配信データは削除されている。ネットで探せばみつかるかもしれないが、爺ちゃんはその時のコメントまで全部見たいということだったので、この配信データが必要だった。
姉ちゃんの家のパソコンは警察が押収し、その返却されたデータを餐太が持っていた。ノーパソを隙を見てコピーしてきたのだ。
「今から見るのは、お前の姉が変質者に襲われる一部始終だ。見たくないなら部屋から出てっていいぞ」
「う、うん」
ネットで出回っていたのは、モザイクが掛かっていたり、編集されていたりしたものばかりだった。修正されていない元データを見るのはこれが初めてだった。
『あー、あー。こんにちは~! 私を見つけてくれた人に心ばかりの幸せを。にじライブ所属13期生、白詰草 よつばと申します。今日は2025年2月22日! 私がVtuberとしてデビューして3回目の誕生日です! 今日はリスナーが作ってくれたゲームをプレイしていきまーす!』
姉の元気な声を聞くのは約1年ぶりだった。配信中の姉はこんなにも生き生きとした声をしていたんだ。家に引きこもっている時の姉は、無口で、ぶっきらぼうで、お世辞にも視聴者が何万人もいるだなんて思えなかったけれど。
姉はしっかりVtuberをやっていたんだ。
「このリスナーが製作したというゲームにマルウェアが仕掛けられていて、バックドアでウィルスが仕込まれて、彼女の住所情報が抜き取られていたらしい。情報元を追いかけたが、海外サーバーを経由していて追跡不能だった」
「そう、なの」
悪質なリスナーが居たんだ。ネットの世界ではなく、今私たちが暮らしている、この世界のどこかに。
爺ちゃんは早送りをして、変質者が部屋に乗り込んだところから再生を始めた。
『きゃあっ! だ、誰……?』
『こんつば~! まさか同じ市に住んでるとはな。おぉ~、俺のゲーム遊んでくれてるな。うまくいったぜ』
画面で動いていた白詰草 よつばが不自然な体勢で固まる。
『で、出てってくださいっ!!』
『俺もこんな姉ちゃんが欲しかったぜ。姉って奴はな、弟を奴隷だと思ってやがる。なぁ、俺の話を聞いてくれよ』
『や、やめてっ……』
『逃げんなよ。聞いてくれよ。俺、よつばが好きって言ってた左利きなんだぜ。血液型はAB型じゃねぇけど、気に入ってもらえる……ぜ!』
姉の悲鳴と何かが崩れ、砕ける音が交互に聞こえた。
私は、やはり見るべきでは無かった。
私は目を背けるだけでは足りず、爺ちゃんの部屋を飛び出して、耳を塞ぎながら階段を降りて、家の外に出た。
目を閉じていたことでさっき見た動画が脳裏に蘇りかけて慌てて目を開けた。見たことのある生け垣、町並みが広がっている。
気持ち悪い。呼吸が速くなる。
こんなことが、配信されていた?
もう、思い出したくなかった。
忘れようとする気持ちが、どす黒い感情に支配されていくのを感じる。
まだこの世のどこかに生きているアイツの喉に、熱した火掻き棒を突き刺して、生きたまま叫べないまま、なぶり殺してやりたい。
私の考え得る中で最もむごたらしい方法で──!
呼吸をなるべく整えてから、爺ちゃんの部屋に戻る。
動画は既に閉じていて、カタカタとキーボードを叩く音が聞こえた。
「……爺ちゃん?」
「鈴音、犯人の特徴だ」
爺ちゃんがさっきの配信のデータを見て、犯人の発言や身体的特徴をまとめたものをリストにしたみたいだった。
私が途中で部屋を出た後の、見れなかった動画も、爺ちゃんは全部見たってこと。
【犯人の特徴】
・姉が居る
・大河小路市在住
・不在²婆ちゃる、デビュー初日にメンバー登録をした
・左利き
・男
・スーパーチャットはしない主義
「これだけ? どこに勤めているとか、何てアカウント名だとかは?」
「分からないな」
「そんな……」
こんな、こんな少ししか無い特徴だけで、どうやって犯人を捕まえればいいっていうの……?
「今さっき俺が見ていたVtuberは、不在²婆 ちゃるっていう。ヴァーチャルヴィジョン所属のVtuberだ。2025年2月22日にデビュー。お前の姉が襲われた日にデビューしてる。犯人はこいつに乗り換えたらしい。
喋ったときだけ姿を現し、無言になるときは姿が消える不在系Vtuberという変わった性質を持ち、エンターテイメント性も評価されてコアなファンが多い。
歌を歌うことが好きで、オリジナル曲も存在する(不在なのに)。デビュー曲『不在²証明(アリバイバイ)』は昨年の新人Vtuberの中では人気の一曲だ」
「知らない。だから何よ」
「こいつをチャンネル登録している奴は何千人と居るが、メンバー登録しているアカウントは100人もいない。この広い世界の中で、何十億人の中から探すよりも簡単だ。100分の1を見つければ良い」
「それだって、どうすればいいかわからないよ」
「どんな手を使ってでも、見つけるんだろう?」
そうだった。私は、絶対に犯人を捕まえる。
「面白いのが、VtuberにはYoutuberと違って『ママ』と『パパ』って存在が居るんだよ。『ママ』ってのは、Vtuberのキャラクターの絵を描いた人、『パパ』ってのが、その絵を動かすソフトやモデリングを作った人。そして、同じママやパパを持つVtuber同士は、たとえ血縁関係が無かったとしても、兄弟や姉妹と呼ばれるんだ」
「ふーん、そういうものなんだ」
「白詰草 よつばのママは何ていう人か知っているか?」
「……知らない」
「園っていうイラストレーターだ。あとは分かるよな?」
「……なにをどうすればいいのよ?」
「考えろよ。姉を傷つけた犯罪者を見つけたいんなら、どんな情報からも手がかりを見つけ出さないといけない。動画だけじゃない。たとえば視聴者のコメントとかも見ていれば見つかるかもな」
「視聴者のコメント?」
「不在²婆 ちゃるの配信に来ていたコメントまとめ、[アメーバブログ]で[catcity-tictac]というアカウントがまとめている。探して読んでみればいい」
「それを読んで何が分かるのよ」
「何って」
爺ちゃんは以前、高校で起きた殺人事件を解いたときのような、何か企みが上手くいった時のような笑顔で言った。
「お前の姉を傷つけた犯人を突き止めるために必要な情報だよ」
♣4
【重大なお知らせ】【ヴァーチャルヴィジョン/不在²婆 ちゃる】
配信日……2026.2.28 18:00:00~
いないいない~、いないいない~、いないいない~……
ばぁ!!!!!
はーい、不在系Vtuber、不在²婆 ちゃるでーっす!!
ね、重大なお知らせ。
この間1周年記念の動画、ありがとね。
私がこの1年、精力的に動画をアップし続けたのは、ある理由があったからなんだ。
私にはやりたいことがあったの。歌を歌って、ゲームを実況して、みんなとたくさんお話して、そのやりたいことに一区切り付けることが出来たの。
これは、私のゴールであり、次のスタートまでの休憩期間。
無期限休止じゃないから安心して。
これをやり遂げたら、必ず私はここへ戻ってくる。
ふふふ。
みんなありがとう。
あ、ちなみに、女の子リスナーって、どれだけいるか教えてくれる?
……あ、いた。ふふふ。いつもありがとー。
ふふ、知ってる。私のリスナー9割男子だからね。
ありがとう。……こんな私を応援してくれて。
でも、これで分かった。やっと見つけた。
今から会いに行くね。
♧0 私のものになって
「大河小路市見据町鋸里5-23-312号室」
そう書かれた紙を手のひらでくしゃくしゃに潰した。
駅から歩いて20分ほど。人気の無い路地の奥に位置するボロアパートだ。人が住んでいるのかも怪しいほど閑散としていた。
私は不在²婆 ちゃるというVtuberを演じながら、姉である白詰草 よつばを襲った害悪リスナーの調査をしていた。
その調査がようやく実を結び、ようやく奴の住所と個人情報を得た。
私の姉を汚し、四つの葉をむしり取った憎き汚らわしき犯罪者の所在地。それはそいつのアカウント名とは対照的に品性の欠片も無い今にも崩れそうなボロアパートだった。
私が持っている中で一番大きいカバンの中には、スタンガン、ロープ、ナイフ、睡眠薬、……合い鍵。復讐のために、殺すための準備をしてきた。アイツは今日はバイトが休みで、確実に家で寝ている。睡眠薬を仕込んだ試供品をポストに入れておいた。合い鍵で忍び込んで部屋に仕掛けていたカメラで、アイツが寝ているのも確認済み。
暴力で圧倒されないように、確実に着実にこの手で命を奪うために私は準備をしてきた。今日この日のために。
不在²婆ちゃるは本当にこの世界から不在くなる。この手でアイツの息の根を止めて、姉の仇を取ってやるんだから。
凹んだ壁、穴の空いた廊下の天井。手すりの折れた階段を3階に上がって、意を決して、312号室のドアを開ける──
ドアを右手で開けた私の、カバンを持っていた無防備な左手を、男の左手が掴んだ。叫ぶために息を吸い込んだ、その一瞬の隙をついて、私は無理矢理部屋の中に引きずり込まれた。
◇
部屋は暗く、生臭い。
腕を後ろで縛られて、私は冷たいフローリングの床へ投げ出された。
「ちょっ……、ほどいて!!!」
「大人しくしてもらおうか」
暗い部屋の真ん中で、男は私を冷たく見下ろしている。顔は見えなかった。
アイツが、アイツが私の姉を……!
睨み付けることしか出来ない私をなだめるように男は言った。
「おっと、俺を殺すのはお門違いだ。俺は爺川 若久。探偵だ」
男がカーテンを開ける。外の明るさが彼の顔を照らす。見たことの無い若い少年だ。高校生くらいだろうか。
髪の毛がボサボサで、変な切り方をされているわ、着ている服がださいわで、ツッコミどころが多い存在だった。まるでリアルの世界に迷い込んだVtuberのようだった。
「だ、誰よあんた!!?」
「お前がVtuber不在²婆 ちゃるとして、配信を利用して、白詰草 よつばを襲った犯人を探そうとしていることに気付いてね。お前の所属している事務所、ヴァーチャルヴィジョンに確認を取ったんだよ。お前が最近、視聴者の個人情報開示請求をしなかったか、とね」
「!!?」
「白詰草 よつばが襲われたときの映像から得られる、襲撃した犯人の特徴は以下の六点」
【犯人の特徴】
・姉が居る
・大河小路市在住
・不在²婆ちゃる、デビュー初日にメンバー登録をした
・左利き
・男
・スーパーチャットはしない主義
「お前は自身のチャンネルの、不在²婆 ちゃるの配信を利用して、この犯人の特徴をそれとなくリスナーに質問したんだ。特徴があてはまるリスナーこそが犯人だ。姉が居るか、大河小路市に住んでいるか、左利きか、男か、スーパーチャットを行わないか……。
そして、不在²婆 ちゃるデビュー1周年記念の配信の日に、メンバーシップバッジが紫色になったリスナーこそが、デビュー初日にメンバー登録をした者を指す。その色の変化を見て、犯人を特定したんだ」
「な、私の動画は全て消したはず──!!」
「生半可に人気だったことが災いしたな。お前のファンが配信の切り抜き動画を残していたり、その時のコメントを抽出したデータをブログに残していたりしていた。それを辿っていっただけさ」
「切り抜き……勝手なことを……」
「そう言うなって。お前の大切なファンだろう?」
「どうして私がそんなことをする必要があるの? よ……白詰草 よつばは、私にとって……、ただの他人。別の会社の知らないVtuberよ!」
青年は声を押し殺したように笑って言った。
「くっくっく。言葉に詰まるような嘘をつくなんて可愛いな。お前にとって白詰草 よつばは、血のつながりこそ無いが、同じ原画師から生まれ、同じ2月22日にデビューした、インターネットの世界における、同じ人が一人と居ない、かけがえのない姉じゃないか!」
自分の中の自問自答ではなく、他人から呼ばれた『姉』という言葉に、私は心を撃ち抜かれたように、刺し貫かれたように、抉り取られたように動けなくなってしまった。
白詰草 よつば。にじライブ所属13期生。四つ葉のクローバーを擬人化した、美しくも儚い、可愛くて芯が強い、私の憧れの姉。不在²婆 ちゃるのイラストを担当してくれた園ママが描いたもう一人のVtuber。
私のデビューの日に、私の姉は襲われ、私の世界から姿を消してしまった。
いつかの配信でリスナーが言っていた。
『二人は双子の姉妹みたいだ』
そのコメントが今でも心に残っている。
『二人のコラボが見てみたい』
そのコメントで埋め尽くされたあの夜の配信。
私はその夢を叶えるために今日この日まで不在²婆 ちゃるとして配信を続けてきたと言っても過言では無かった。
姉が安心してこちらに帰ってこれるためにはどうすればいいか?
原因を排除する。あのリスナーをこの世から抹殺する。
それしかない。
警察に任せてもう1年。
何が変わった?
何も変わらない!!
姉は今も心を閉ざし、私は会うことも出来ない。
あの絹のような可愛らしい笑い声を聞くことも出来ない。
許せない。
許せない許せない許せない。
許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。
肉片も骨片もこの世に残してたまるものか。
存在を許してたまるものか。
私が、姉を救う。
そのために、ここまでやってこれたんだから。
「わかったわ。あなたも私と同じところにたどり着いたのね。それでどうするの? あのゴミ野郎を許せって言うの? だったらあなたも私が殺してやる!!」
私の標的が1人増えてもやることは同じ。
青年は笑って言う。
「威勢が良いな。勘違いするな。許せだなんて言わないさ。処分を俺に任せろって言いに来たんだ」
「は? 処分?」
「俺が殺す。まぁ、正確には、俺じゃないが。知り合いにプロの業者がいてね。肉片も骨片も、指紋も皮脂も、髪の毛一本も残さない。存在を消してやるよ、お前の代わりに。お前みたいなド素人がやると、証拠が残って、お前が捕まっちまうからな」
「あなたが……?」
どっからどう見ても高校生くらいにしか見えない青年が、代わりに殺す? 馬鹿げている。
「そんなことどうやって……!」
「知らない方がいい」
私に一歩近づいて、首元にヒヤリと冷たい何かを当てられる。
途端に私は呼吸が早くなった。息が吸えない。苦しい。
「ここにたどり着くまでに、お前はお前の動画のコメントを何回も何回も読み込んだはずだ。お前の一喜一憂に喜んで憂いて、喜怒哀楽に同情して悲しんで、便乗して怒って、笑って笑い合う、素敵なリスナーがたくさん居たじゃないか。それが見えなかったのか?」
「あんなやつら、姉さんに比べたら、たかが100人……!」
「お前が活動休止するって時に、お前の帰りを待っているリスナーが100人も居たんだ。それってすごいことなんだぜ」
怒りにまかせて、憎しみを募らせて、私は、私の声を聞いて、私に声を聞かせてくれた、リスナーの声を聞いてあげられていなかった。
自分に都合が良いコメントだけを拾って、自分に好意的なリスナーであるその他大勢を蔑ろにして、たった一人の犯罪者だけを追い求め、その犯罪者のために不在²婆 ちゃるを殺してしまおうとしていた!!
これをやり遂げたら、必ず私はここへ戻ってくる。
そんなこと無理だって、分かっていたはずなのに……!!
「お前の最愛の姉の、帰る場所を守るのは、お前しか居ないんじゃないのか!?」
力が、抜けていく。
ここまで私を駆り立てていた、復讐の源が消えていく。
私が姉のためにできること。
姉さんとやりたいこと。それを守ることができるのは、私だけ。
アイツを殺してしまえば、それは私自身を殺してしまう。
私が姉の帰る場所を壊してしまうんだ……。
「……あなたに任せていいのね?」
「この世界どれだけ探しても、俺しかいないぜ、適任は」
青年はこちらに向かってカードを投げて渡してきた。
手は後ろで縛られたままなので、目の前に落ちたそれを、腰をかがめて、目を細めて見る。
黒い紙に白抜きでQRコードが描かれたカードだった。
「名刺を渡しておくよ。名刺に名前を書く奴はアホだ。個人情報、証拠が残る。また何か処分して欲しいことがあれば、条件次第では聞いてやるよ。ここにアクセスして、パスコード『yotsuba』と入力しろ」
姉を売る妹は居ない。私のたった一人の姉なんだから。
私はできる限り姿勢を正した。両腕は後ろに縛られたまま、額をフローリングにこすりつけた。
「よろしく……お願い致します」
「あいよ」
青年は私の両腕の拘束を解いた。
「ちなみにな、冤罪だとマズいから、こいつのパソコンを調べた。白詰草よつばにウィルスを送るのに使ったゲームの製作データが出てきた。こいつは完全にクロだ。おめでとう。お前、探偵に向いてるよ」
「あなた……、探偵なんでしょう? どうしてこんなことをするの?」
「どうして……? お前と同じさ。警察に任せて、法に任せて、手遅れになって。姉だけでなく、妹にまで被害が及んだらどうする?」
私は頭が真っ白になった。
わたし……?
「警察のせいにして、法律のせいにして、手遅れになったあとじゃ、後悔しても遅いだろ。俺は高校で、それを嫌というほど学んだんだ。寛容なんかしていられない。ゼロトレランスでいく」
そう言う青年の瞳は、何か既に手遅れになってしまった誰かを見ているかのような悲しい目をしていた。
「……そう。ねぇ。あなた、名前、なんていうの?」
もらった名刺には徹底的に個人情報は書かれていない。さっき何か名乗っていたようだが、頭に血が上っていて忘れてしまった。
「爺ちゃんと呼べ。お客さんにはそう呼んでもらっている」
こんなにも幼い青年が爺ちゃんだなんて。
何が彼をこう変えてしまったのか。
『知らない方がいい』……か。
「そう。爺ちゃん、末永くよろしくね」
♣♣♣♣
20XX.XX.XX 21:00:00~
【コラボ】ずっと待ってた!!おかえり!!!【不在²婆 ちゃる/ヴァーチャルヴィジョン】
いないいない~、いないいない~、いないいない~……
ばぁ!!!!!
はーい、不在系Vtuber、不在²婆 ちゃるでーっす!!
ふふっ、ありがとう。みんなひさしぶり-!
ちょっと自分を見つめ直す旅行に行ってました。
でも、寂しくなって、みんなに会いたくて、帰ってきました。
またみんなとたくさんお話ししたいな。
あれからいろんなことがあったけれど、これから、目指してきたことが報われて、そこからまた新しい目標が出来ました!
また応援してくれたら嬉しいです。
そこでそこで、今日はすっごい嬉しいことがあります!
スペシャルゲストです!
みんなも知ってる、あの人です。
私の大大大大だーーーいすきな、憧れの人。
はーい、いらっしゃーい!!!
『あー、あー、あの、こんにちは。私を見つけてくれたあなたに、心ばかりの幸せを──』
♧♧♧♧
「爺ちゃん、配信見せてー」
何しに来たのか、部屋で配信を見ていると、鈴音がやってきた。
鈴音の姉が配信活動を再開したため、それをリアルタイムで見てみたかったらしい。
色鮮やかなコメントがものすごい速度で下から上に通り過ぎる。
二人のVtuberは、ただのイラストと言ってしまえばそれまでだ。だが、二人の笑顔とその他大勢による歓迎のコメントによって、何物にも代えがたい、素晴らしい、確かな世界が構築されていた。
「爺ちゃん。なーんか、この二人、本当の姉妹みたいだね。なんだか妬けちゃうな」
「……そうだな」
お前くらいはちゃんと名前で呼べよ。
俺の名前は爺川 若久って言うんだけどな。
そう、隣の分からず屋に聞こえないくらいの声で呟いた。
了
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