#1 読書期間(足踏み)
僕は猫都市時刻というペンネームで、趣味で推理小説を書いている。
2025年6月某日。Mystery Exhibion1の『短編部門』の読書期間が始まった。
『短編部門』唯一の条件、8千字未満というのはかなり短い。それは推理小説を趣味で書いている僕だからこそわかる。小説(文庫版)だと1ページにおおよそ680文字印刷できるので、おおよそ11ページで8千字だ。ざっと手に取ったミステリーの短編小説のページ数を見ると短くても40ページ。8千字はその4分の1であることがわかる。
さて、それはそれ、書く方の事情はさておき、ミステリーを読む方の立場になってみると、どうだろう。ミステリーは読者と作者の知恵比べである側面があるので、8千字の中に作者のトリックやギミックが巧妙に隠されている。一つの言葉に複数の意味が内包していることもあるだろう。僕の場合は何度も戻って読み返したり、言葉の意味を調べたり、ホワイトボードに書き写して推理したりするのが好きだから、あまり文字数は気にしない方である。
推理小説における文字数は単純に作品のボリュームとも言えるだろう。であるならこそ、ある作品の文字数は、他の作品と圧倒的に違っていた
『砂上の楼閣に素引きの精鋭部隊を配置している』という小説の文字数は100文字も無かったからだ。
以下本文。
「
新潟県、砂丘公園前、事故死。
謎1.この事件は殺人事件である。犯人は誰か?
謎2.殺害方法を延べよ。
」
暇なので数えてみたら、カギ括弧を入れなければ50文字にも満たない。 もし、実際にこのようなテストがあったらどう解けばいいのだろうか。問題文のみが書いてあるだけで、解答用紙も無い。
しかし、『探偵役と謎』のサイトに載っている以上、これはミステリーであるはずだ。
試しに僕は『新潟県』『砂丘公園前』『事故死』で検索してみて、少し驚いた。
新潟県の砂丘公園前の道路で先々月に男性が事故で亡くなっている。この小説はノンフィクションなのだろうか?
これが事故死ではなく殺人事件だった? ネットのニュースを見る限り、殺人ではなく事故死扱いになっているようだ。
砂丘公園をグーグルマップの航空写真で眺めてみても、真四角な形の、どこにでもある普通の公園で、この周辺の道で事故にあったのか~、くらいにしか読み取れない。
僕は新潟県と考えて、ミステリ創作仲間のことを思い出した。そういえば創作仲間のうちの二人が新潟県に住んでいた。
一人は菱川あいずさん。彼とはあいにく連絡が取れなかった。
もう一人の方には連絡が取れた。犬飼仮縫いさんという。犬飼さんは回文好き同士で、今でもたまに連絡をとりあっていたりする。
彼に、現地に行けない僕の代わりに、調査をしてもらおう。
この事故死が本当に殺人事件だったら? なんて。
面白半分で、気分は安楽椅子探偵だった。
#2 犬飼の調査(胴造り)
犬飼は14時、自宅最寄り駅から各駅停車で二駅目の、普段あまり降りない駅でマップアプリを起動した。砂丘公園を目的地に設定する。
約1年ぶりくらいに創作仲間の猫都市から連絡があったことが起因する。
以前に合同ミステリ本を作った時の知り合い。オフ会で軽くご飯に行ったこともある。その程度の友人だ。
彼によると、現実に起きた事件を題材にした推理小説があって、その現地調査をして欲しいそうだ。教えてもらったサイト『探偵役と謎』に掲載された小説を見てみて、試しにキーワードを検索してみると、なんと家から電車で数駅の公園の近くで交通事故が起きたらしい。その推理小説では、それがどうやらそれが本当は殺人事件であると書いてあった
一応こちらの現地の情報網で調べてみた感じだと、トラックの前にふらっと飛び出して轢かれたのだという。被害者は飲酒していたこともあり、酔って道を飛び出した不慮の事故とされたのだと。
素人考えだけど、事件性は感じられない。トラックの運転手が可哀想だなと思ったくらいだ。
今書いている小説のトリックが煮詰まっていたから、気分転換がてらにその調査を手伝うことにした。そんな経緯だ。
駅から歩いて15分。大通り沿いにある小さな公園だ。
遊具は砂場とブランコ、滑り台と水飲み場。半分埋まったカラフルなタイヤ。よくある公園といったところだ。
正方形に近い形の公園には東西南北に出入り口があり、事故があったのは北出入口の前の道路だ。事件があった時間帯にもよるのだろうか、公園では砂場遊びをしている子供が一人。井戸端会議をしている奥様方数人、公園の清掃をしている青年が一人いた。
清掃員ならもしかしたら事件当日も公園に居たかもしれない。そう思い、話を聞いてみることにした。
#3 清掃員の話(弓構え)
大学の卒論で交通事故について調べている、と適当な嘘をついて話を聞くことにした。二ヶ月も前の交通事故を調べているのもおかしな話だからだ。
清掃員の青年は、帽子を目深にかぶり、顔は見えなかったが人の良さそうな雰囲気だった。彼に近づくと生ゴミのような臭いがして思わず後ずさりをしてしまった。彼はロープをまとめている手を止めて、話をしてくれた。
「こんにちは。あぁ、あの事故の話ですか。最近、同じ話を何度か聞かれましたよ。事故自体は2ヶ月くらい前のことなんですけどね。俺もその時公園に居たので驚きました。
事故は北口の信号で起きました。俺は南口の近くに居て、西口近くの砂場にはお子さん、東口近くには主婦さん達が井戸端会議してました。俺は公園の備品を片付けてましたね。
ちょうどそこにいるお子さんと、主婦さん、きっとその時にいた人たちですよ。聞いてみたらいいんじゃないですか?
誰かに背中を押された可能性? そうなると交通事故じゃないですよね。うーん、でも、北口にはその時、被害者の方以外に近くに人は居なかったと思いますよ。足下がふらついて、道路の方にふらっと飛び出していったように見えました。そこにトラックがドーンって……。まだ昨日のことのように覚えてます。
#4 主婦の話(打起こし)
三人の女性が楽しそうに話をしているところに割って入るのは気が引けた。だが、犬飼が普段ここに居ない人間であることは気付いていたのだろう。犬飼が近づくと自然と主婦達の話は落ち着き、向き直って挨拶をした。
「あら、どなた? 卒論? えぇ、少し前の事故の時もここに居たわよ。東口の道路の奥に息子の塾があるの。こっそり逃げ出してないか見張っているのよ。
あの時はねぇ、糸魚川さんちの旦那さんの浮気の話をしてて、盛り上がっていたの。もう、糸魚川さんが旦那さんを殺してやるって言って聞かないもんだから……、その話は要らない? えぇ。すぐ近くで高いブレーキの音と、何かにぶつかる音、壊れる音。すぐにその音の方を向いたわ。北口のすぐ近くでトラックが電柱にぶつかってたわ。
その時公園に他に誰が居たかですって? 砂場に男の子がいたのと、そこの清掃員が素引きしてたわね。何か新しい遊具の準備でもしてたんじゃないかしら?
慌てて道路に見に行ってみたけど、トラックは電柱に突っ込んでいて、離れたところに男性が血を流して倒れていたわ。清掃員の子が通報してくれて……。交通事故が一番怖いわ。だから今日も塾を見張っているの」
#5 子供の話(引き分け)
「え? だれ? おじちゃん。ふーん、知らない人としゃべっちゃダメってママに言われてるけど、いーよ。てつだってよ。お城作るの」
砂場で遊んだのが記憶の彼方だからどうやってお城を作ればいいのだろう。泥団子の作り方も知らない。まず城も西洋の城なのか日本の城なのかを決めていきたいところだが、砂のお城を作るときまず西洋の城を思い浮かぶのは何故だろう。
城造りに思いを馳せながら、聞くことは聞いておくことにしよう。
「うん。こうつうじこ。したんでしょ? あぶないよね。行こうと思ったけど、そうじのおじちゃんがあぶないからこっちで遊んでてって言うから見に行かなかったよ。そんなこと言ってるのに、そうじのおじちゃんもまーちゃんのママもあっちの方に行っててずるいよね。
でもね、その時、ぼく魔法のじゅうたんを見たんだよ。でもその後すぐにすごい音がして、気がついたら見えなくなっちゃったんだ」
#6 素引きの精兵(会)
犬飼が集めてきてくれた情報を見て、猫都市は、ふむとつぶやいた。
公園の写真を見る。ホワイトボードに簡略図を書いてみた。
北口に被害者、南口付近に清掃員、西口の脇にある砂場に子供、東口付近に主婦たち。北口付近に被害者しか居ないのなら、トラックに轢かれるように背中を押すことは現場に居た誰にもできないように思える。
犬飼から掛かってきた電話でお互いに推理を繰り広げる。
「小説のタイトルにヒントがあると思うんだよね。つまり砂上の楼閣は砂場のお城、素引きは主婦の証言。おそらくこの二点が推理のヒントになるはずだ」
「位置関係を見ると、誰にも犯行は不可能だね。被害者を押すには遠すぎる。うん、あと猫都市。砂上の楼閣って、砂のお城のことじゃないからね」
「え? そうなの?」
探偵助手の方が博識である。ノックスの十戒の第9戒に反する。
「いや、言葉の意味を検索して調べただけだよ。『砂上の楼閣』は、土台が砂、砂地に建てたお城の事で、不安定な足場に建てた建物は基礎がしっかりしていないから長続きしない、実現不可能である、という意味だよ」
「じゃあ、この事件における『砂上の楼閣』は実現不可能であるっていう不可能殺人っていう意味に取れるのか」
砂場のお城と事件とは関係なさそうだと猫都市は思った。
「じゃあ主婦が話していた『素引き』は? ガチャを無課金で引くことじゃないの?」
「それがどう事件に関係して被害者が死に至ったのか論理的に答えられたら僕は脱帽通り越して絶望だよ猫都市」
現地調査員ばかり調べさせて悪い気がしてきたので、猫都市は『素引き』を検索した。
「弓道において、矢を弓に乗せずに弦だけを引くこと。弓の張りを確かめるための練習のこと?」
そんなことを清掃員がしていたならとてつもなく怪しい、と猫都市は思った。
「……ひらめいた」
「聞かせてくれよ、猫都市」
「犯人は清掃員。西口と東口にまたがるような大きい弓を張って、南口の方に長ーいゴムを引っ張って放したんだ。これが素引きだ。弓に矢を乗せずに弦だけ引くこと。これだけ巨大なゴムなら、鋭い風を生むだろう。その突風は被害者の背中を押して、トラックの前に押し出したんだ」
「そんな巨大な弓を張っていたら、子供はさておいても、さすがに主婦は気が付くだろう」
清掃員が近づいてきた。生ゴミのような腐臭がして、犬飼は少し身を引いた。
「こんにちは。どうですか? 捜査は」
「いやぁ、東西に巨大な弓を張って、突風を起こして被害者の背中を押したのかなぁって推理をしていたところです」
「はっはっは! 面白い。推理小説よりもファンタジー小説の方が向いているのかもしれませんね」
犯人に小説家に向いていると笑われるのは、探偵あるあるだけれど、ファンタジー小説が向いていると言われるのは初めてだ。
推理小説を書いていることを話した覚えはないのに。偶然だろうか。と、犬飼は考えた。
「ところで『素引きの精兵』という言葉をご存じですか?」
「いいえ?」
清掃員が楽しそうに話しかけてきていることに、違和感を覚えた。
「素引きは矢を乗せずに弓を張ること、ですよね? 素引きだけは立派でも、実戦では役に立たない人のことを『素引きの精兵』と言います。理論だけは立派でも、犯人を捕らえるには実力が足りない探偵にぴったりの言葉じゃありませんか?」
「!?」
清掃員は赤いタイヤに腰を掛けて、犬飼たちしか知り得ないことを言った。
「『砂上の楼閣に素引きの精鋭部隊を配置している』とは、不可能殺人と、それを解決できないあなたたち見かけ倒しの探偵たちのことを言っているんです」
#7 砂上の楼閣(離れ)
『砂上の楼閣に素引きの~』は、探偵役と謎に掲載されている小説のタイトルで、それをこの清掃員が知るはずが無かった。
どうして知っている? 何を言っている?
帽子のツバで隠れていた彼の口元だけの笑顔が見えたとき、意味のわからなさで背筋が冷たく感じた。
「あぁ、どうして俺がその小説のタイトルを知っているかが不思議と思われるのなら、以前同じようなことを訊ねてこられた方が、その小説のことを話していたのを覚えていただけです」
そういえば、清掃員がそんなことを話していたな、と犬飼は思い出した。
砂上の楼閣は不可能殺人を表し、素引きの精鋭部隊は僕たちのことを表している?
それは確かに、その通りだ。あまりにも今の状況を表しすぎている。
現実に起きた事故を題材にして、推理小説で謎を提示する。現実で的外れの謎解きが行われ、この状況全てが『砂上の楼閣に素引きの精鋭部隊を配置している』という小説を形作っているというのだ。
作者に翻弄されている。
犯人に踊らされている。
そもそもこれは事故なのか? 殺人なのか?
不可能殺人と言い張っているだけで、ただの事故なのではないか?
ただの事故なら謎解きなんてできるはずがない。否。ただの事故であるという謎解きが必要なのか?
この現実世界を巻き込んだ推理小説を完結させるためには、砂上の楼閣という不可能殺人を、具現化させなければならない。
「猫都市、もうここまでにしないか。清掃員の人も、なんかゴミクサいし、近づきたくないよ」
「仕方が無いだろ。ゴミ屋敷で付いた臭いって、なかなか落ちないんだよ」
「え?」
「いやまぁ、それはさておき犬飼、『素引きの精兵』は確かにその人の言うとおりなんだろうけど、『素引き』には他にも違う意味があるよ」
猫都市がそんなことを言うもんだから、『素引き』のもう一つの意味を 調べてみた。
その時、一陣の風が吹いた。
脳裏に吹いたその風は、ごちゃごちゃに積み重なった事象を優しく撫でて、誤解と曲解を荒々しく吹き飛ばし、そこには美しい城ができあがった。
「猫都市、組み上がったよ。論理の城が」
#8 完結の拍手(残心)
猫都市は犬飼の推理を聞くことにした。所詮安楽椅子探偵は物語の中の話だ。やはり、実際に目で見て、肌で感じた情報こそが、ひらめきに必要なのだろうと。
「OK。聞かせてくれないか。君の推理を」
犬飼は清掃員とスマホの向こうの友人に聞かせるように、深呼吸をして推理の披露を開始した。
「友人の言うとおり、『素引き』には弓に矢を乗せないで弦を引く、という意味以外にもこんな意味がある。『縄をしごく』『縄を扱う』という意味が。事故の時、清掃員さん、あなたはロープを扱っていたんじゃないですか?」
「ゴミや道具を縛ったりしていますからね、何も問題はないでしょう?」
「はい。しかし、今回の事故はそのロープを使って起こされていたんです。『砂上の楼閣』には不可能なこと、以外にも意味があります。『土台がしっかりしていないので、外見だけ立派でもすぐに崩れてしまう』という意味が。被害者は飲酒をしていて足下がおぼつかなかった。もしその足下に絨毯のようなものがあり、それがテーブルクロス引きの要領で突然引っ張られたとしたらどうでしょう? 北口の信号待ちをしていた被害者の足下の絨毯が、南口の方向に引っ張られたら、前方にバランスを崩します。被害者はトラックの前に飛び出してしまった。これは、そういう殺人事件だったんです。
事故が起きると、大きい音がして、トラックや被害者の方に注意がいってしまう。ロープと絨毯を回収してどこかに隠す時間は大いにあるでしょう」
清掃員はゆっくりと、大きく手を叩いて、賞賛の意を表した、ようにも見えた。
#9 フェアゲーム(弓倒し)
「推理小説を書く際にある程度のルールがあります。ノックスの十戒、ご存じでしょう? 一語一句覚えてはいないでしょうが、ミステリーにおける約束事のことです」
ノックスの十戒。ロナルド・ノックスが1928年に発表した、推理小説を書く際のルールのことだ。
推理小説は作者と読者との知的な対決のことだが、作者が持てる全てを使って何でもありな小説を書いてしまっては、読者が推理を楽しむことが出来ない。よって、作者が最低限守るべきルールを定めているのだろう。
「俺はね、そういうルールの中で、暗黙の了解になっている1つの条件が、フェアじゃないなぁって思うんです」
「推理小説は読者と作者との知的な戦いだ。推理小説はフェアじゃなきゃいけない。そんなルールは存在しない」
「それは、"探偵は殺されない"というルールですよ」
探偵の不在、それは謎解きが行われないことを意味する。論理的な推理無き推理小説は、推理小説なりえない。
「推理小説の作者は犯罪者です。何故なら被害者を殺し、謎を構築するからです。社会的にリスクある行動です。しかし、一方探偵は何故か命を保障されている。リスクを背負わずに謎を解くというのは犯罪者と比べてフェアではない。探偵も命の危険を晒して、リスクを負って謎を解くべきじゃないですか?」
「それは、推理小説における探偵ではなく、現実に推理小説を読み、謎を解く探偵である読者の命を危険に晒すって意味、なのか?
まず作者が犯罪者だという話もおかしい。推理小説は創作だ。実際に人を殺して良いはずが無い。これは空想の世界で論理的なパズルを楽しむという遊びなんだ。本当に殺人をしてどうする!」
「結局、空想の殺人事件にあなたたちは何を求めていますか? 臨場感? 現実味? そこにはリアルさを求めているはずです。不可能殺人に実現不可能な解を望むのですか? そこに望むのは実現可能な殺害方法でしょう。その希望に対する最小限の回答は、現実に起こした、現実に即した事件だ。求められるのは可能性ではなく、不可能性。非実現ではなく、実現だ。砂上の楼閣を眺めるだけでは満たされない。触れて初めて推理小説は現実に実現する!!」
「……この事件の被害者は誰だ?」
新潟県にいる創作仲間の一人と連絡がつかない。今もまだ。
もしこの事件の犯人が、作家を、読者を、探偵役を殺そうとしているのなら、あり得ない話じゃ無い。あの人は今回選考委員、読者側でもあるからだ。考えすぎだろうか?
清掃員の青年は、答えない。答えないという余韻で探偵の推理を妨げない。確定しないという余白で推理は現実に具現していくようだ。
「探偵役を殺すのはダメだ。推理小説には探偵役が絶対に必要だ。それはこの僕でも証明できる」
「そうですか。では、聞かせてください。感情論ではなく、道徳倫理ではなく、論理を」
「今ここで、僕があなたと舌戦で戦ったように、論理で戦い合うことが推理小説の楽しみだろう。作者と読者。犯罪者と探偵が推理を繰り広げることが楽しみの一つだ。探偵役が不在ならば、あなたが作り上げた美しい城の存在に、誰も気付かないことになる。砂上の楼閣は砂場に紛れ、完全犯罪はただの事故のまま誰にも気付かれない。それでいいのか。そのままでいいのか!」
「……Exactly! それはつまらない、ですね。ふふ。楽しい。やはり探偵と意見を交わし、議論を酌み交わすのは楽しい。スリル満点だ」
清掃員は頭を下げた。
「ご安心を。今の話はフィクションです。これはただの二次創作なのですから。その証拠に、私が素引きをして殺人をした証拠なんて、どこにも無い。これは、ただの事故ですよ。現実では、ね」
この事件がただの事故である。知り合いが死んでいない。
それを確定させることが、犬飼にはできなかった。
友へ送った生存確認の返事がくるまでは。
了
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