「これ以上は待てんよ」
言い捨てるような古川の声が浴びせられた。厚い絨毯に両手と膝を突く黒瀬を前に、古川は豪華なソファに深々と腰を下ろし自慢のステッキを磨いている。ベランダへと続く窓は開け放たれており、吹き込んできたやわらかな春の夜風が古川のガウンの裾を揺らした。
「……お願いします」
黒瀬は再び額を床につけたが、古川は何も答えなかった。コトリと音がした。古川がステッキをテーブルに置いたのだ。直後、立ち上がった古川は窓際まで歩いていく。
「返済期限は明後日」
話はこれで終わり、とばかりに古川がぴしゃりと言い切ると、何かのスイッチが入ったかのように黒瀬は静かに立ち上がった。右手が卓上のステッキを掴む。飴色に光沢した、見るからに高級な木製のステッキ。長さに加え、手にした感触で重量も申し分ない代物だと分かった。目の前に無防備な背中を晒している守銭奴の頭を叩き割るのに……。
殺気を感じたのか、古川は振り返ろうとしたが、振り下ろされたステッキが頭を打ち割るほうが早かった。
殴りつけた勢いが余り、ステッキは黒瀬の手からすぽりと抜けてしまった。そのまま宙を飛んだステッキは、窓を抜け、ベランダを転がり、ベランダ床と柵との間に空いた隙間を抜けてしまった。
――あっ! まずい!
黒瀬は咄嗟に動けなかった。倒れた古川の死体が障害となり、すぐにベランダに行けなかったためだ。
踏みつけてかまわないか――いや、靴跡がガウンに残ったらやっかいだ。ならば飛び越えて……。
逡巡しているうちに水音が聞こえた。ステッキが落下していったベランダ直下からだ。
結局、古川の死体を跨ぎ越えてベランダの柵に飛びついた黒瀬は直下を見下ろす。六階という高層階、夜の十時という条件下においても、そこに何があるのか、先ほどの水音が何かを知ることは容易だった。
このホテルは建物の壁沿いに所々、堀のような小さな池が掘られている。この605号室の直下には、まさにその池が存在していた。ベランダから落下したステッキは、眼下にあるその池に落水したに違いない。実際、池のそばに立つ外灯の明かりを受けて、池の水面が揺らめいている。
再び古川の死体を跨ぎ越えた黒瀬は、部屋から廊下へ飛び出し、エレベーター内の監視カメラを避けるために非常階段へと走った。
階段を駆け下り、ホテル外周伝いを走り、605号室の真下に辿り着いた黒瀬は、建物壁に密着し、幅二メートル、長さ五メートル程の長方形に穿たれた、その小さな池のほとりに立ち尽くした。池の水面には何も浮かんでいなかった。あのステッキは木製。池に落ちたのであれば水面に浮かんでいるはずだ。なのに……。
池の底は見通せなかった。夜だからではない。この池――ここに限らず、ホテル外周にいくつかある同じような全ての池――の水は濁っているのだ。このホテルのシーズンは春から秋にかけて。シーズンオフのあいだに土砂や落ち葉が堆積したせいだろう。が、そんなことはどうでもいい。ステッキが見当たらないとは、どういうことなのか……?
周囲を見回す。何者かが通りがかり、拾っていってしまったのか? あのステッキは値打ちものだということだから、それもあり得る。しかし、ステッキには古川の血が付着しているはずだ。取得者が気づかないはずはない。警察に届けられでもしたら……。血痕に加えて、古川がぴかぴかに磨き上げていたあのステッキを、黒瀬は素手で握っていたのだ。
――何としても回収しなければ。
焦る気持ちを抑えつつ黒瀬は、まず現場のことを考えた。古川が宿泊していた605号室。ドアはオートロックのため戻ることは出来ないが、古川と自分が知人であることはすぐに調べがつくはずのため、古川の部屋に自分の指紋があっても何も問題はない。幸い、古川を殺してからここまで、廊下や外で誰ともすれ違っていない。犯行時刻は自室にいたなどと適当にアリバイをでっち上げればいい。証人はいないが、それが偽証だとも証明できないはずだ。
――あのステッキさえ回収できれば、何とかなる……。
古川は一人客のため、死体が発見されるのは早くても翌朝だろう。行動を起こすのは明日にして自室に戻ろうとした黒瀬は、池のほとりに何かが落ちているのを目に留めた。それは男物の靴下だった。しかも片方だけ。どうしてこんなところに靴下が、しかも片方だけ落ちているのか? この靴下の落とし主がステッキを持ち去ったのだろうか? そうだとしても、なぜ靴下が……? 何かの手がかりになるかもしれないと黒瀬は、とりあえずとその靴下を回収して自室――204号室へ戻った。
眠る前にベランダに出て一服つけようかと、テーブルの煙草に手を伸ばしかけた黒瀬だったが、疲労のほうが打ち勝った。体を投げ出したベッドで輾転反側しているうちに、黒瀬は眠りの底へと落ちていった。
目を覚ました黒瀬は、朝食会場である一階の広間へ下りていった。
朝食をとりながら黒瀬は考える。回収者はステッキをどうしたのだろう。付着した血痕に気付かないはずはない。ホテルで何も騒ぎは起きていない。警察に通報はしていないのだろうか。取得したのをこれ幸いにと、血痕を拭いとって自分の物にするか、どこかへ売り飛ばすつもりでいるのだろうか。このホテルに泊まるような金持ちであれば、あのステッキが高価な物だということは見抜くだろう。騒ぎが起きていないということは、古川の死体も発見されていないに違いない。死体が発見されて警察が到着したら一気に動きにくくなるだろう。それまでにステッキを発見しなければ……。
朝食を終えた黒瀬は、ホテルの施設を偵察に出た。ロビー、喫茶スペースと見て回るが、ステッキを持つ人物は見当たらない。売店に入ったところで、黒瀬はレジで買い物をしている男を目に留めた。その男が購入しているものは……靴下だった。じっと様子を窺う。足下を見やると……その男は靴下を履いていなかった。革靴に直接素足を通している。お洒落でやっているのではないだろう。であれば、靴下を買い求めるわけがない。なぜあの男は靴下を購入したのか。決まっている。靴下を持っていないからだ。なぜ靴下を持っていないのか。なくしてしまったからだ。あるにしても、男の手元には片方の靴下しかないに違いない。なぜなら……。黒瀬は背広の懐の中で、昨夜拾った靴下を握りしめた。
黒瀬は男を尾行することにした。売店を出た男は、ロビーのソファに腰を下ろすと靴を脱ぎ始め、買ったばかりの靴下を履いた。ようやく靴下越しに革靴を履けた心地よさからか、すっきりとした顔になった男は、立ち上がると玄関に向かった。当然黒瀬も尾行を継続する。
玄関を出た男は、併設された庭園へ足を向けた。生け垣や木立、東屋が建ち並ぶ広い庭園の一角の、木立の前に設えられたベンチに向かって男は歩いて行く。ベンチにはひとりの女性が腰を下ろしていた。顔見知りのようで、男の姿を認めた女性も座ったまま男の到着を待っている。男は女性とベンチに並び、何やら会話を始めたが、その声を聞き取ることは出来なかった。距離があることに加え、そもそも男女は声をひそめて話をしているらしい。普通に近づいては怪しまれるため、黒瀬は木立の中を迂回してベンチの背後方向へと回り込み、何とか二人の声を聞き取れるまで距離を詰めた。
「……を忘れていかなかったかな?」
男が言ったあとに、
「……いえ、なかった、と思うけど……」
女性の声が続くと、落胆したように男はため息をついてから、
「そうか。でも、いちおう探しておいてくれ。大事な物だから。で……本当に大丈夫だったのか?」
「ええ。危ないところだったけど」
「本当に?」
「どうして?」
「だって……殴られたから」
「殴られた?」
「そう。ベランダの柵に足をかけたところで、後ろから」
「誰が殴ったっていうの?」
「一人しかいないだろ……君の……」
「それはありえないわ。だって、うちのひとは、そもそもベランダに出てなんていないんだから。急に帰ってきたものだから、私が玄関で足止めをしていたのよ。あなたがベランダから逃げる時間はじゅうぶんに稼いだわ」
「そうなのか……」
何か納得いかないような表情で男は、首を傾げると自分の頭をさすった。
二人の間の事情はおおよそ理解できた。この男女は不倫の関係にあるのだろう。少なくとも女性のほうは既婚者で、昨夜、夫が不在なのをいいことに、男を部屋に招き入れたのだろう。こんな投宿先でも逢瀬を重ねるとは結構なことだ。苦笑いを噛み殺しながらも黒瀬は考える。この二人のどちらか、あるいは双方が事件に何か関係している――つまりは、あのステッキを拾った――ということはないだろうか? 靴下を見せてみるか? これはあなたのものですか? と。……訝しがられるだろう。男が自分のものだと認めたとしても、いつ、どこで拾ったのかと逆に問いただされたら厄介だ……。ステッキのことを直接訊けるわけもない。
身じろぎをした拍子に、黒瀬は足下の枯れ枝を踏みつけてしまった。パキッ――
「誰だっ?」
ベンチから立ち上がった男が振り向く。咄嗟に黒瀬は懐に手を入れると、
「あ、失礼」と手を出して、「……これを落としませんでしたか? そこで拾ったのですが……」
自分のルームキーを差し出した。部屋番号が見えないように裏側を上にしている。
「えっ?」と男は自分の懐をまさぐると、「……いえ、私のキーは、ありますよ」
自分のルームキーを掲げた。女性は財布の中を覗き込み、「私も」と答える。
「そうでしたか。では、これはフロントに届けておきます」
すぐにカードキーをしまった黒瀬は、ご丁寧に、どうも、という男の声を背中に、そそくさとベンチを離れた。
男が自分のキーを取りだした際、印字された部屋番号が見えた。男の部屋は303号室。黒瀬の部屋である204号室の斜め上だが、だからといってそれが事件に関係があるとも思えない。
庭園内を移動しつつ、散策している宿泊客を観察していた黒瀬は、ぴたりと足を止めた。その視線は庭園の隅に建つ東屋に向く。正確には、東屋の壁に立てかけられている一本のステッキに。
――あった!
どうしてこんなところに? 周囲に、東屋の中にも人の姿は見られない。東屋に駆け寄り、ステッキを掴み取る。……手触り、重量感、ともに同じだ。間違いない。見たところ、血痕の付着はない。拾得者が拭い去ったのか? であれば、自分の指紋も消えている可能性が高い。無理に持ち去らず、このままにしておいても害はないのでは? ……いや、何が起きるか分からない。やはり、ここは――
「どうかされましたか?」
突如として声をかけられ、「ひゃっ!」と黒瀬は跳び上がった。声のした方向を見ると、東屋内のベンチに小柄な老人が座っていた。ベンチに横になっていたのだろう。小柄なため、東屋の壁が遮蔽となって姿を視認できなかったのだ。
「い、いえ……」と黒瀬は、「こ、このステッキがたいへん立派な物でしたので、つい……」
「ほほう、これはお目が高い」
破顔した老人に会釈した黒瀬は、手に取ったステッキを、さも鑑賞するように眺めていき、そして、小さく嘆息した。よく見るとステッキの柄部分に、〝S.ITO〟とネームが刻印されている。古川の持っていたステッキにこんなものはなかった。拾ってから刻んだものでもありえないだろう。工場でなければ入れられない、きちんとしたフォントであるうえ、その上からニスも塗られているからだ。これは同じ製品だが、自分が古川の頭を叩き割った〝凶器〟ではない。
「いとう……さん」
「はい。伊藤修司と申します」
頭を下げた伊藤老人に、黒瀬も会釈を返した。それにしても、宿泊客の中にまったく同じステッキを持った人がいたとは。金持ち御用達のブランド品なのかもしれない。
「良いものでしょう」
伊藤の言葉に、ええ、と黒瀬はステッキを小さく振った。昨夜、古川の頭を叩き割ったときの感触が甦る。
「スネークウッド製のステッキなのですよ」
「スネーク……使われている木の種類ですか?」
「そうです。その名のとおり、蛇の皮のような美しい木目でしょう。南米の一部にしか生息していない稀少な木でしてね。成長しても直径が三十センチ程度にしかならないため、家屋や家具などに使われることはなく、もっぱらこうしてステッキやバイオリンの弦などに加工されることが多いですね」
「ははあ……」
「スネークウッドは、ほかにも珍しい特徴がありましてね。比重が1.22もあるんですよ。これがどういうことかお分かりですか?」
金持ちの自慢話を聞いている暇などない。すぐに凶器の捜索を続行しなければならない。
「どういうことなんですか?」
と生返事をして、ステッキを返そうとした黒瀬だったが、
「水に沈むんです」
「へえ……えっ?」目を丸くして、返却しかけたステッキを凝視すると、「み、水に……沈む?」
「そうです。水の比重が1ですから、それよりも比重が高いということは、水よりも重い、すなわち、水に沈むということでして。一般的な木材の比重が、種類にもよりますが概ね0.8ですから、スネークウッドがいかに重い木かということが……あっ! どうされました?」
押しつけるようにステッキを伊藤に返した黒瀬は、脱兎の如く走り去った。
605号室直下の池の前に黒瀬は来た。
――この池の底に、あのステッキが……。
観賞用の人工池だ、水深は数十センチしかないだろう。底をさらうのは容易い。周囲を見回す。人の姿はない。たとえ池をさらう現場を目撃されたとしても、〝ステッキを落としてしまって〟と素直に言えばいいのだ。そうと決まれば……。黒瀬は池に入る準備として靴を脱ぎ始めた。――と、そこに、
「すみません」
声をかけられた。見ると、背広の男を先頭に、制服を着た数名の一団が近づきつつある。その制服は……警官のものだ。
「え、えっ? はい?」
脱ぎかけた靴を慌てて履き直した黒瀬に、制服警官を率いていた背広の刑事が、
「そこから離れていただけますか」警察手帳を開示しながら、「ホテルの部屋から死体が発見されました。捜査にあたるのでご協力ください」
――思ったよりも早かったな。
心の中で舌打ちした黒瀬は、
「捜査というのは?」
「この池を調べます。殺されたのは605号室の宿泊客なのですが、部屋に凶器が見当たらないのです。で、部屋の真下にこの池があったもので、もしかしたら、凶器はここに落ちたのではないかと」
警官たちは長靴を履いていた。手には網も持っている。刑事が黒瀬の肩を掴んで強制的に池から離れさせる。黒瀬は従うしかない。そうしている間に、警官たちが池に入っていく。この人数で、この小さな池をさらい尽くすのには、数分も要しないだろう。
――終わった……。
警察官たちの作業を、黒瀬は為す術なく見ているしかなかった。そして、数分後、
「何かありました!」
警察官が網に捉えた何かを手にして掲げた。それは……一台のタブレットだった。
結局、池の底からステッキは出てこなかった。警察は、発見されたタブレットを犯人に繋がる重要証拠品と位置づけ、持ち主を探っているらしい。宿泊客はホテル内に留まるよう警察から要請されているため、逃走することは出来ない。もっとも、自分に捜査の手が伸びてこない以上、慌てて逃げたところで余計な疑いを招くだけだろうと黒瀬は考え、自室でじっとしていることにした。
――それにしても……。
ベッドに横になりつつ、黒瀬は思う。あの凶器――ステッキは、どこへいってしまったのか……。煙草を手に取る。昨日の夕食後から一本も吸っていない。そろそろ一服しようか、と、そこに、ノックの音とともに「すみません」という声が重なった。ベランダに向かいかけた足を返し、黒瀬はドアスコープを覗く。先ほど会った刑事だった。後ろには二名の制服警官も控えている。一瞬迷ったが、黒瀬はドアを開けた。ここで抵抗して妙な疑惑を向けられるよりは、協力的な態度をとったほうが懸命だと判断した。
「ああ、あなたでしたか」警察手帳を開示した刑事は、意外そうな顔をしてから、「すみませんが、ベランダを調べさせてもらえませんか?」
「ベランダ?」
「はい。捜査に必要なことですので」
「…………」
わけもわからないまま、黒瀬は応じるしかなかった。いったい、この部屋のベランダに何の用事があるというのか。
「いちおう、一緒にご確認いただけますか」
警官がひとりドア前に――門番のように――残り、黒瀬は刑事、警官と三人でベランダへ出た。そこで――
「――えっ?」
思わず声をあげた。指に挟んだままだった煙草が、ぽとりと落ちる。ベランダの一角に、見憶えのある、飴色に光沢した、見るからに高級な木製のステッキが転がっている。その先端には、どす黒い血痕が付着していた。
池からタブレットが発見されると、それは自分のものだ、と名乗り出た男がいた。303号室の為石という宿泊客で、その端末は昨夜なくしたのだという。自分は犯人ではない、と強く主張しつつ、為石は事の経緯を伝えた。
昨夜、為石は自室を抜け、305号室を訪れていた。その部屋に投宿している夫婦の妻との逢瀬が目的だった。夫は仕事相手とホテルのバーで話をしており、深夜まで戻ってこないと妻に知らされたためだった。ベッドで一緒になっていた二人だったが、そこに、どういうわけか夫が戻ってきた。二人は急いで服を来て、妻はドアへ向かい、為石のほうはベランダに出た。ベランダのすぐ先に外灯があることを知っており、体力に自信のある為石はそこへ飛び移って逃走しようとしたのだ。ベランダの柵に足を掛けて身を乗り出させ、外灯に飛び移ろうとした――その刹那、為石は頭部に強い衝撃を受けた。夫がベランダまで来て自分を殴りつけたのだと為石は思ったという。激痛に耐えつつ柵を蹴り外灯に飛び移った為石は、地面に下りるとホテル方向を一度も振り返らないないまま逃げ出した。
自室へ戻った為石は、タブレットを持っていないことに気付いた。慌てていたため305号室に置き忘れてきたのか。さらに、逃げ出す際、時間を惜しみ靴下は履かずに懐に入れ、素足を直接靴に通したのだが、その靴下が片方なくなっていたことにも気が付いた。為石は無意識のうちにタブレットを脇に抱えて持ち出していたのだが、外灯に飛び移る際に直下の池に落としてしまったのだろう。その水音も耳に入らないほどに為石は慌てていたのだ。
この供述により為石は重要参考人とされ、部屋が調べられることとなった際、ベランダに出た警官がおかしなものを見つけた。303号室――為石の部屋――のベランダではなく、柵から身を乗り出して下を見たとき、斜め下に位置する204号室のベランダにステッキが転がっているのを発見したのだ。どうやらそのステッキには血痕らしきものが付着しているように見える。被害者が所持していたはずの高級ステッキがどこにも見つからず、傷口の形状から、警察はその消えたステッキが凶器と見て捜索していたのだった。
話を聞いた黒瀬は全てを察した。昨夜、現場である605号室のベランダからのステッキの落下と、その真下に位置する205号室から為石が逃げだそうとしたタイミングが恐るべき偶然で一致したのだ。転がり落ちたステッキは、ベランダの柵に足を掛けて身を乗り出していた為石の頭に命中し、その衝撃で跳ね、斜め下の204号室のベランダに落下したのだ。
ハンカチ越しに血痕のついたステッキを取り上げた刑事は、「持ち手の部分に明らかな指紋が付着していますね。どうですか、あなたの指紋を提出していただけませんか」
有無を言わさぬ迫力をもって、黒瀬に迫った。
了
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